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世界初の農業協同組合。千葉県旭市。グーグルマップをゆく #54

 グーグルマップ上を適当にタップして、ピンが立った町を空想歴史散策する、グーグルマップをゆく。今回は千葉県旭市。

 千葉県の北東部に位置する旭市は、江戸の初期まで椿海と呼ばれる山手線が入るほどの湖があり、干拓された歴史を持つ。

 幕末、ここに世界初の農業協同組合と言われる「先祖株組合」が結成された。仕掛け人は、大原幽学という浪人である。

 幽学は尾張藩の家老の子で、18歳の時に藩の剣道師範と果たし合いを行い、斬り殺してしまうという事件を起こした。そのため、父親に勘当され、藩を出て近畿や中国、四国などを流浪した。

 その間、学者や高僧などから教えを乞うて学問を身につけた。そして、流れ流れて辿り着いたのが長部村、現在の旭市であった。

 当時、全国各地の農村の多くは幕府や藩の財政難や重税、役人の腐敗などで荒廃が進んでおり、長部村も例外ではなかった。

 村の名主であった遠藤伊兵衛は、たまたまやってきた幽学の知識の深さに感銘を受け、村を救ってほしいと懇願した。

 幽学は、縁もゆかりもないこの土地で村の立て直しをすることになったのである。もしかすると、この時すでに、様々な構想が頭にあり、試してみようと思ったのかもしれない。

 「先祖株組合」という組合を作り、村人が土地を出し合って共同管理し、売上を積立てたり、分散する農地を交換させて密集させて整理し、農作の管理や肥料や収穫物の運搬などの効率をよくできるようにするなど、様々な工夫によって改革を行った。

 また、「改心楼」という教育施設を作り、「性学」という経済や経営を中心とした教育も行った。

 そうして廃村寸前だった村は活気を取り戻しつつあったが、それを快く思わない腐敗した役人によって、幽学は不当な取り調べを受けることとなり、5年にも及ぶ訴訟の末に改心楼は取り壊され、組合は解散を言い渡された。その間に村は荒廃し、それを嘆いた幽学は切腹するのである。

 幽学がいない間、性学に対する弾圧もあり、村人たちは抵抗することもできず、農業をすることもままならず、村が荒廃するのをただ黙ってみていることしかできなかったのだろう。

 憤りしか感じないが、いつの時代も権力者にとって賢い改革者は邪魔であり、庶民はバカな方が良いのである。

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