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『ベリー・ベスト・オブ・オリジナル・ラブ』  オリジナル・ラブ

 “この道何十年”なんてこの人には全然当てはまらない。出すアルバムごとに表面的な音楽性の変化がこれほど激しい人も珍しいだろう。それだけ引出しがたくさんあるのか、それとも飽きやすい性格なのか・・・。もちろん才能が無いとこの変化は昇華しないわけで、今回改めてベスト盤を聴きなおしてみてこの人の才能を確信した。
オリジナル・ラブ=田島貴男である。
 多様な音楽性(ネオGS、ポストパンク、民俗音楽、アシッドジャズなど)を次から次へと発表し、“渋谷系”などのくくり方をされたこともあった。これはそのサウンドが、ファッション界やクリエイターと呼ばれるカタカナ業界に注目される事が多かったことにも起因している。そういえば、ブティックなどでBGMとして頻繁に使用されていたことを遠い昔に思い出す。
その“おしゃれなサウンド”もオリジナル・ラブがバンドとして存在していた時と現在とでは大きくその音楽性を変えている。クラブサウンドに狂ったかと思いきや、いきなりアコースティック・サウンドに変幻。こういった雑食系な才能はミュージシャンからも熱い信望を得ている。ミュージシャンズ・ミュージシャンということだ。

 本人は“渋谷系”と呼ばれることにかなり抵抗があり、その表現を否定している。その気持ちは十分理解できる。彼のこぼれんばかりの音楽性を一括りにされるのはいかがなものかという気もしないでもないからだ。

 16ビートの軽い刻みとソウルフルなブラスが満ちた音の中からバリトンの効いた田島のヴォーカルが浮かび上がると、そこはもうオリジナル・ラブの世界である。あの声はあの体と彼の骨格からくるのだろうな、と思う。いつも半分目を閉じたような薄目で、時より不適な笑いを口元に持つ田島貴男は、独特な雰囲気を持って歌う。ミュージシャンというよりどこか悟りを開いた宗教家のようでもある。その彼が魔術師のように音を組み上げて行く様は、音楽がパズルのように感じられる。そういった中で詞をどう活かすかが課題となるのではないか。
なぜなら、耳あたりの良い音楽と心に残る音楽は同一とは言い切れないからだ。
だからこのことに意識して、田島は意識し「プライマル」(1996)を発表したのではないか。
ユーザーにしてみれば、新たな一面を見ることが出来たという満足感はあるが、作品の出来があまりにも“はまって”しまったのでオリジナル・ラブ=バラードという安直なイメージをつけられてしまうのだ。器用な田島ならではの悩みが再び噴出してしまう。

 現在もオリジナル・ラブは独自のスタンスで作品を発表している。いろいろな音楽を実験的に行なってきているが、あくまでも田島に流れるポップスのセンスの結晶が作品として昇華されるのだ。
あまり考え込んで聴く音楽でもないのかもしれないし、考え込み始めると抜け出せなくなるような気もする。そんなミュージシャンである。
今回紹介する『ベリー・ベスト・オブ・オリジナル・ラブ』(1995)はオリジナル・ラブの初期4年間分の作品が中心で、様々な音楽がシャワーのように降り注ぐ。
深みにはまる前のカタログ的なアルバムとしては最適である。
2008年3月15日(土)
花形

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