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背中を見守る大人でありたい

秋が深くなってきて、陽が落ちるのが早くなった。
公園で遊ぶ子どもたちも暗くなる前に、お開きになる。「じゃあね、また明日。」
その姿を横目に見ながら、私も家路を急ぐ。

と、小学校低学年くらいの女の子が、「あれ?帰り道がわからなくなっちゃった」と、すれ違いざまにその子の呟くのが聞こえてきた。

心配になって「わからなくなっちゃったの?」と声をかけると、こくんと、首を縦に動かす。

家はどのへん?遠いの?住んでるのは一軒家?それともマンション?

と質問をして、けっこう歩いてきたこと、5階建のマンションに住んでいること。
住所は分からないが、そのマンションの名前だけ、覚えていて、マンションの名前をポツリと言う。

こういう時にスマホは便利。
マップのアプリを開いて、そのマンションの名前を検索すると、公園から歩いて10分程のところにその名前のマンションがあることがわかった。

「ここであってる?」と、スマホの画面を見てもらうと、「たぶんそう」と、女の子は頷いた。

歩いて10分の場所を口頭で説明するのは難しいし、小さな女の子が暗い道を一人迷いながら歩くのも心配だったので、マンションの近くまで一緒に歩くことにした。

「あっちの方角だよ」と、伝えると、女の子は、トコトコと歩き出した。
私は少し後ろを歩く。

道が二手に分かれる場所に出ると、女の子は、左右を見て、右へ行く。少し進んでまた、道が二手に分かれると、一度立ち止まり考えてから、左へ進む。

私はマップを確かめながら、方角的に間違っていなければ、女の子の進みたいように歩いてもらった。

私が先を歩いて、「こっちだよ、あっちだよ」と先導するのは容易いけれど、これは彼女の道のりだから、私は邪魔をしたくない。

道を間違えるとか、車が危険だとか、そういう時には声をかけよう。けれど、そうでなければ、見守っていよう。

女の子は時々駆け足しては、立ち止まり、進む方向を確かめて、また歩き出す。それから、時折、私がいるのを振り返る。

一度も道を間違えなかったので、きっと、私がいなくても、その子は一人で家に帰ることができただろう。
けれど、振り返って、見守る目があることに安心してくれていたら、いいなと思う。

最後の角を曲がると、女の子は「あ!わかった!」と、言って私を振り返る。

マップで確認すると目的のマンションは、もう見えているはずだ。

走り出す女の子の背中に、「気をつけて帰ってね」と声をかける。

「ありがとうございましたー!」と元気な声が返ってくる。

きっとあなたは大丈夫。
自分の直感で進む道を選んで、ちゃんと辿り着いたのだから。
あなたの未来に幸あれ。

そして、あなたの背中を見守るという、私にとっては貴重な時間をありがとう。


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