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ラッキード・RPG

これは新車を購入してクラクションが気に入らなかった男のはなしである。
 これまで乗り続けてきた外車を辞めて、国産に乗り換えてみた。
 実は車検や燃費の事を考えての結論だ。
 外車はパワーがあってハンドルを握っていると実に気分がいいものであっ
た。
 若い頃、国産の大衆車に乗っていると随分あおられたものであった。
 それに、B○●やベ△△にはウィンカーも無しに割り込みなんてしょっ中。
 余りに煽られるので外車にする事にした。
 すると、運転していると分かるが周りが勝手に避けるようになっていた。
 おかげで快適なドライビングを楽しむ事が出来るようになった。
 ところがある日、足の怪我で手術し、後遺症が残り外車の販売店に通うのが困難な状況に陥ってしまい、もしもの事を考え近所にある国産車の販売店にしたのだ。
 ある日、その販売店を訪れてみた。
「本日は外車でお越しですが、お目当ての車種はございますか? 」
とショールームの営業マンが尋ねてきた。
 当然と言えば当然であり、お客に何を薦めるべきかの判断材料になる。
「実は・・・・・・ 」
 足の事を話して、カラダがこうなっているのでと説明をした。
「そうなんですか。それで当販売店においでなさったんですね」
と納得したようであった。
 実を言うと、この販売店で扱っている車種の中にWRCラリーで実績を挙げているスポーツカーがあって最初からこれにしようと決めていた。
 ホントはマニュアルの方が良かったのだが、あえてAT仕様にした。
 ハイオクで無くレギュラーでも動くエンジンと言うのも理由だった。
 限定仕様のため、納車にかなり手間取ったが、いざ購入してみると早く運転してみたくなっていた。
 担当者はシルバーかブラックを薦めていたが、あえてカタログと同じホワイトにした。
意外な事にホワイトでも何種類かあって、この車種は特に限定仕様というので注文してから塗装にかかるので時間がかかると言われた。
 いよいよ納車の日が訪れたので、クルマを取りに向かった。
 キーを担当者からもらいエンジンを駆けてみた。
 実にエンジン音が静かであった。
 担当者が見見送られながら、直ぐさまハンドルを切って、車道に出てみた。
 アクセルのタイミングが未だ慣れていないので、安全運転で走る。
 ハンドルの感覚も未だぎこちないが、暫くするとスポーツカー独特のアグレッシブルな反応が分かってきた。
「これだよこれっ! 」
 自分で言うのもなんだが、クルマはハンドルを握って運転している時が一番楽しいのだ。
 そこへ、いきなりトラックが割り込んできた。

 急ブレーキを踏んだ。
「キィー! 」
 思わずクラクションを鳴らしてしまった。
「ペーッ!」
 何て情けない音と思った。
 前のクルマが二連フォーンだったので、これじゃ昔の玄関の呼鈴と同じゃないか。
 慣らし運転もそこそこに、家路に着いた。
 直ぐさま販売店に連絡して、この事を相談してみた。
 クラクションは元々、警笛なのでむやみやたら鳴らすものでは無いと言われてしまった。
 それでも収まらないのでアマゾンで特別仕様に合うフォーンを見つけたの
で、工場で金がかかってもいいから、なんとかならないか相談してみた。
 すると意外にもこんな事をいってきた。
「お客様、差し支えなければ当社でも特別なオプションのパーツがございま
す。こちらの製品をご提案させてもらえませんか? 」
 ダブルの仕様でバンパーを外して取り付ける作業が必要があったが、それならばと言うことで販売店の提案を受けることにした。
 一週間後に作業が完了したと連絡をもらったのでクルマを引き取りに行っ
て、音の確認をさせてもらった。
「パパァーン」
 自分の描いたイメージ通りであった。
 高音だが、かなりいい響きだったので即、気に入った。
 担当者から操作説明を受けた際に、取扱いにはくれぐれも気を付けろと言われた。
 一瞬、なんでと思ったが運転座席のハンドル下に切り替えスイッチが付いていた。
 セレクタレバーで「0」「1」「2」と表示されていた。
「これって、何のためにあるの? 」
と質問してみた。
 すると、
「絶対、触らないでくださいね! 」
 と言われたので分厚い説明書を黙って渡されてお終いであった。
 それからしばらく経って、カミさんとドライブに出かけた時に起きた。
 伊豆方面に向かって東名を軽快に走り抜ける。
 川崎を過ぎた頃に、あるクルマが後ろから煽ってきた。
 こちらは左車線をおとなしく走っていたが、マフラーがツインで限定仕様であるのに気づいていたんだろう。
 パッシングしながら、かなりしつこく迫ってきた。
 多分、このクルマがどれ程の走りか試そうとしているつもりなのか?
 何とか、このクルマから離れようと、ギャを上げて右車線を突っ走ってみ
た。
 すると、待ってましたと言わんばかりに追い上げてくる。
 車線を次々と変えるが尚も付きまとってくる。
 
 こんな事をいつまでも続ける訳にいかないと思い、シフトダウンした。
 あわや接触しそうになったので、後続車はなんと、前に躍り出てきたのだ。
 まさに巷でニュースになる煽りを仕掛けてきたのだ。
「いい加減にしろ!」
 と思わず叫びながら運転している。
 クラクションもこれでもかと鳴らし続けていた。
 だが相手にはなんの効き目も無かった。
 ふと、販売店での説明を思い出した。
「セレクタは絶対、触るなと言っていたな」
「そうだ。もしかしてクラクションの音が別の音に変わるかも? 」
 期待してみた。
 まずレバーを「1」にしてクラクションを鳴らしてみた。
 その瞬間、車体前面のサイドが急に開いて、中から機関銃のようなモノが現れたのだ。
 そして5、6秒ほど
「ガガッ」「ガガッ」と銃弾の発する音がしていた。
 まるでボンドカーさながらの装備である。
 これに驚いた相手のクルマが、逃げるように猛スピードで駆け抜けていく。
 アドレナリン全開の自分は次にレバーを「2」にしてクラクションを鳴らしていた。
 なんと、機関銃の銃座が下りて、今度はロケットランチャーが出てきたではないか。
 既に遅しで、カーナビの画面にロックオンされている模様が映し出されていた。
「ピシュー」
 ロケット弾が発射された。
 数秒後、何百メートル先で
「ズドーン! 」
「バッコーン!」
 地響きがした瞬間、黒煙が立ち昇っていた。
 レバーを「0」に戻すと、ランチャー砲は車体に格納されていった。
 家路に着いた。
 まだ心臓がバクバクと脈打っていた。
 段々、冷静さを取り戻すと、ダッシュボードに入れっぱなしの、分厚い取扱説明書を開いてみた。
 冒頭のページを読んだ瞬間、衝撃が走った。
「当社は軍需メーカーのラッキード社にM&Aされました」
「このラッキード・RPGに関しての取扱および操作に関して、当社は一切関知致しません! 」

とにかくありがとうございます。