人のうわさも七十五日
壊れたスピーカーの話である。
SNSでは毎日、ウワサ話が多く出回っている。
いったい何が本当の事か分からない。
近所でも有名な民子さんがいた。
朝から週刊誌の記者の如く、神出鬼没でネタは無いかとスーパーや喫茶店をハシゴしまくっている。
とにかく人が三人いれば寄ってきて聞き耳を立てている。
正にひとりサーズデーかB春なのだ。
昔からこの手の人はいたが、もうちょっとスマートに出来ないものか?
ところがいつの頃からか、顔が突然変異してしまい、顔が四角く変形してしまった。
そして顔全体がスピーカーになっていたのだ。
すると特殊な能力が身について、人の心の声が聞こえるようになって、この人が半径十メートル内に近づくとスピーカーを通してタダ漏れするのだ。
まるでブルーツースかと思うほど、感度良好なのである。
おかげで町はスキャンダルの嵐が吹き荒れ、人妻の不倫がバレたの、娘が万引きで補導されたとか、ダンナが会社をクビになっただの決して他人には知られたく事情が公になっていた。
「まさか、あの先生とPTAの会長がホテルから出てくるなんて」
「あそこのお嬢さんコンビニで万引きして捕まっていたんですって」
「銀行の支店長なさってたご主人、不正融資で懲戒解雇ですって」
おかげで朝から通りに人の姿が消えてしまったのだ。
うっかり道を歩いているだけで噂のネタ元になるからであった。
しかし民子さんはそんな事そっちのけに町を徘徊しまくるのだ。
商店街はとんだとばっちりである。
デリバリーで買物を頼むようになったからだ。
「一体誰がこんな風にしたんだよ」
スーパーの店長がぼやいていた。
そしてこの人のおかげで不倫がバレ、娘が万引きで補導され、ご主人が会社をクビになった奥さんの息子が突如、大きなハンマーをスピーカーと化した民子さんのアタマを目がけて振り下ろし、打ち砕いたのだ。
「バッコーン」
町中に木っ端みじんになる瞬間の大音響が鳴り響いた。
ようやく町に平穏な日々が訪れるようになった。
人のうわさも七十五日と良く言ったものである。
とにかくありがとうございます。