23時の軽井沢#34
瑛紗は過去を振り返り、言葉を絞り出しながら話を続けた。
「1年半くらい前、私が働いているカフェにアルノが来てくれたの。車椅子に乗ってね…あのとき命には別状はなかったけど、結局ずっと車椅子で生活することになったんだ」
○○は何も言わずに黙り込み、和も複雑な表情を浮かべて黙っている。
「私がそのカフェで働いてて、そこで絵を展示していたことを、どこかで知ってわざわざ会いに来てくれたみたいなの。本当に優しくて、いい子だよね…」
瑛紗の声は徐々に震え、目に涙が滲んでいた。「彼女はすべて話してくれたの。どんな経緯でいじめが起きたか、誰が黒幕で、どんなに苦しかったかってね。そのとき、改めて和がアルノにしてきたことがどれだけ残酷だったか、身に染みてわかった。…どうしても許せなかった」
和は目を伏せ、「うん…」と小さな声で言った。
「だから、復讐しようってアルノに言ったの。でも、やっぱり彼女は最後まで復讐なんて望まなかった。だから、私は直接的に危害を加えない方法で、和に少しでも罪の意識を感じさせたかったの。…当時、あなたがアルノにしたように、じわじわと…」
和は肩を落として黙りこみ、瑛紗の想いが静かに広がっていった。○○も言葉を失ったまま、かつてのクラスメイトである和と瑛紗の間に漂う緊張感をただ受け止めていた。
瑛紗はにやりと微笑んで続けた。
「それでね、私はアルノの無念を晴らすための計画を綿密に立てたの。和が〇〇の前で悪人になるようにね。だからただ事件を起こすだけじゃなくて、〇〇が興味を引くような“都市伝説”の形に仕立てていったのよ。どう?23時、街が眠る頃に不可解な事件が続けば、ルポライターの血が騒いだでしょう?」
○○は肩をすくめ、苦笑した。「ああ…完璧に騙されたさ。」
「それで、駅で張り込んでたの。毎日、アルノと交代でね。あなたがこの町に戻ってくるのを待って、やっと見つけたのが3か月後。あなたを確認した時はガッツポーズしたわ!」
○○は頭をかきながら瑛紗を見た。「すごい執念だな。で、昨日からの計画、どうやって動かしたんだ?」
瑛紗は少し得意げにうなずき、「ま、待たせた分、最後は演出も派手にいこうってね。まずは○○が町に戻ったらすぐに、少しずつ和が追い詰められるように誘導した。そして、過去の出来事を少しずつ暴露して、和を自らの行いに直面させるようにしたのよ。」
○○はその細やかな手配に呆れつつも感心した表情を浮かべ、「なるほど、そこまで考え抜かれてたとは…」
瑛紗は微笑みを浮かべたまま「さて、これで本当にすべてを終わらせるときね」と静かに呟いた。