キタダヒロヒコ詩歌集 2
うかうか林に踏み入ると
世界の冷淡さが懐かしい
白く硬い樹木 少しだけ水を含んだ葉
私の日常はまるで絵のように
背景のようになり
温和しくかがやきながら私を遠ざける
その日があったということは
いつまでも消えない光の粒だ
からだの奥のほうに
小指の先ほどの位置をたしかに占め
色もかたちもそれらしい
貴い石となる
そのひとつひとつが私を確かに記憶し
私もその記憶からのがれることはない
美しい気持ちはなんの先触れもないまま
とつぜん
思いがけず空を満たす
空がひとかたまりの炎