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1999年から2003年までの阪神タイガース その㉚

2000年。
伝統の一戦。

試合前のレフトスタンド。
阪神ファンと巨人の選手の罵り合いが今日も始まった。

笑いが起きる。
罵声が飛び交う。
とある選手がブチ切れる。

今では考えられない「巨人戦の風物」。
一瞬にして空気を切り裂き、
雰囲気を変える男がいた。

清原和博。

この男だ。

いつもの如く三塁側から現れ、
レフトへやってくる。
オレンジのメガホンが大きく揺れる。

「キヨ!キヨ!!!」

明らかに球場の雰囲気が変わる。
オレンジシートから三塁内野B指定、
そしてレフトスタンド方面へ。

この男は微笑み、時折ファンに手を振りながら
ゆっくりと。小走りでやってくる。

向かう先?
僕ら軍団の所へ。

「おうお前ら!元気でやってたか!」

さっきまで罵声を浴びせていた僕たちの空気が一気に変わった。
黄色いメガホンが揺れる。
地響きが起こるような物凄い大歓声だ。

「キヨー!!!久しぶり!!!」
「キヨ!!怪我は大丈夫なんか!?」
「キヨー!!大好きや!!」

言っておくが僕たちは「阪神ファン」だ。
もう他の選手等眼中にない。

キヨはいつも僕たちの所に一番に来て、
足を止め話してくれるんだ。

キヨはどんな冗談を言っても応えてくれた。
いつも僕たちの話を聞いて笑ってくれた。
僕たちと話している時のキヨは楽しそうだった。


この軍団の中に少し有名なファンがいたんだ。

見るからに気合いの入っている熱狂的な阪神ファンでね。
二次会でいつも見る顔だった。

名前は「的場」さん。

何が凄いって?
的場とキヨは友達だった。

「キヨー!!こっちきてやー!!キヨー!!」

「何や、またお前か!!」

的場とキヨはいつも楽しそうに話をしていた。
僕はこの光景を見るのが楽しみで、試合前はいつもレフトにいた。
こっちを見ながら笑っているキヨの姿を忘れる事は出来ない。

「キヨ、おれとキャッチボールをしてくれ!」

「ええぞ、投げてこい!!」

「ほんでな、キヨ!一つだけお願いがあるんや!」

「何や、言うてみぃ!」

的場はボールにサインを貰う。

「ありがとう!キヨ!!」

的場とキヨ。
いつしか伝統の一戦での名物となった。
そして二人のやりとりやエピソードは「デイリーモバイル」でも取り上げられ読者の間で有名となった。


翌年。
2001年の伝統の一戦での出来事だった。

いつも通り、試合前。物凄い人だかりだ。
的場がキヨとレフトで話し込んでいる。

「キヨ、あのな、一つだけお願いがあるんや!」

「何や、またか!言うてみ!」

「FA!来年阪神来てや!キヨ!!」

「おう、ええよ。分かった!!待っとけ!!」


このやり取りは翌日のスポーツ新聞で大々的に取り上げられた。

清原FA宣言
2002年はタイガースへ!
ファンの要望に「おぅ、ええよ!」

デイリーモバイルも盛り上がった。
的場本人が投稿し、
本当に嬉しかったと感想を送っていたんだ。

キヨに貰ったサインボールを大切にしている。
本当に嬉しかった。
今日の出来事を一生忘れない。
キヨが阪神にきたら全力で応援したいと。

僕はこのやりとりを目の前で見ていた。
「おぅ、ええよ!」
二人の笑顔、大歓声の阪神ファン。
涙が出た。
試合前とは思えない盛り上がりだった。

キヨはFAを行使し、
来年は絶対に阪神に来てくれるものだと信じていた。


僕も。みんなも。




続く

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