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はじめての夜①

はじめての夜は、天気のいいある秋の日だった。
うんざりして、嫌な気分で、どうにでもなれと思って夜道を歩いていた。

ふと通りかかったBMW。さっきも通らなかった?そのくらい印象に残る車だった。
その車はゆっくりと、でも流れるようにわたしと歩調を合わせた。

「ねぇ、あのマンションへの行き方わかる?」
それがその人の第一声だった。

そう言いながら指差すその先には近所でもとりわけお洒落なマンションがある。

「えーっと…」

歩きなら行ける。以前その前を通ったことがある。でも車で行く場合は?この辺りは一方通行の道も多いけれど私は運転しない。

「隣にきて案内してくれない?怪しい者じゃないから。○○で働いてるの。」

そういいながら、某企業の名前の入った保険証を見せてくる。通常なら、明らかに怪しい奴だった。でもどうにでもなってしまえと思っていたその時の自分は何のためらいもなく

「いいですよ。」

と言ったのだった。車で行く方法だって知らないのに。今から考えてみれば、その時無意識のうちにその後どうなるかなんて分かっていたのかもしれない。ちょっとした冒険心がうずいたのも事実だ。

私は車に乗り、ガイドを始めた。

「近所に住んでるの?」

「そうです。」

「この道であってるかな?」

「そうですね。いいと思います。」

道も分からないくせに適当に相槌を打つ私。赤信号で車が止まるとその人は左手を私の右ひざのあたりに突き出してきた。まるで飼い犬のお手を期待している飼い主のように。私は反射的に右手を重ねた。暖かくなめらかな手。その人は指をからめるようにして私の右手を握り、車を走らせていった。

まだ少し蒸し暑さが残っていた日だった。彼の運転がうまいのか、車がいいのか、その両方なのか、助手席の座り心地はすこぶるよく、乾いたエアコンの風がしょげ切っていた私の気持ちを上向きにしてくれている。握った手は運転に合わせて揺れる。そして時たま私の胸をかすめていった。

「ねえ、これから遊ばない?」

赤信号を待っている中、私を見つめながら彼はそう言った。

「いいですよ。」

彼の左手が私の下着の下に向かっていった。


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