見出し画像

いつか書きたい歴史上の人物①大山捨松さんのこと

 毎年春は、たんぽぽと格闘しています。田舎暮らしなので、ちょっと広めの庭があるのですが、手入れが行き届いておらず、春から秋にかけて雑草との戦いです。
 で、一番手ごわいのがたんぽぽなのです。
 都会で暮らしている方の中には、たんぽぽをむしるなんてかわいそうと思う方もいるでしょう。
 私も最初は思っていました。幼い息子や娘と、「花かんむりを作ろう」「あそこに綿毛があるよ。ふーしてごらん」などと悠長に言い、遊び道具にしていたのです。
 子どもが大きくなって、気が付くとたんぽぽ畑と化した我庭。さすがにやばいと思い、毎年たんぽぽと格闘するに至るのです。
 たんぽぽってかわいい可憐な花に見えるじゃないですか。でも、滅茶苦茶たくましい、しぶとい花なんです。とにかく、根が深い。
 岩のように固い我が家の庭から少しでも深く根を取り除こうとするのですが、排除したはずの場所から、数日後に見事に葉が再生している姿は、もうホラーに近いです。斬り落とした腕があっという間に再生する某アニメの鬼のごとく……。
 または、引っこ抜いたたんぽぽの花をアスファルトの上にうっかり放置して、二、三日後に見事な綿毛になっている時のショックったら……。
 でも、毎年たんぽぽと格闘しながら思うんです。「たんぽぽは一見可憐でかよわい様でいて、なんてたくましいんだろう」
 そして、自分もそんな風に何があってもへこたれず、たくましくありたい、と。
 そう思いながら、毎年たんぽぽとの戦いに敗れている私です。

 前置きが長くなりましたが、いつか書きたい歴史上の人物・記念すべき第1号は「大山(山川)捨松」さんです。

 幼い頃の名前は、山川咲。会津藩の家老の家に生まれ、子どもの頃会津戊辰戦争を経験。その後、津田梅子等と一緒に日本で最初の女子留学生になります。この時に「捨てたつもりで待つ」という意味の捨松に改名。アメリカで優秀な成績で大学を卒業し、日本の女子教育に力を入れようと希望を抱いて帰国しますが、日本には当時女性が活躍できる仕事はありませんでした。   失意の中、元薩摩藩士の大山巌と結婚します。

 こんな風にざっくりとその人生をかいつまんだだけでも、なんてドラマチックな人生でしょうか。

 最初にこの人の存在を知った十代の頃、捨松のことをかわいそうな人と思っていました。夫の大山巌は、幼い捨松のいた鶴ヶ城を攻めた人です。一か月間敵の砲弾にさらされた鶴ヶ城で、捨松は、兄嫁を目の前で亡くしているのです。
 それなのに、憎き薩摩藩士、しかも、十五も年上の男性に嫁がなければいけないなんて、旧会津藩士の窮乏を救うために仕方なく、泣く泣く結婚したに違いない……。
 結婚がゴールと考えていた少女漫画の世界にいた当時の私は、そんな風に考えていました。

 けれど、津田梅子が新しいお札になると決まって、再びこの人の人生にふれると、当時とは全く違う印象を持ったのです。
 大学を優秀な成績で卒業した捨松、それなのに、日本では自分の能力を活かす場所を与えられない。しかも、当時の結婚適齢期を過ぎていた捨松は、「行き遅れだ」と母親に嘆かれる。かといって、西洋のレディファーストに慣れていた捨松は、日本の亭主関白の家庭に嫁ぐことなんて我慢ならない。
 そんな中求婚してきたのが、大山巌だったのです。母や兄が猛反対する中、捨松はどんな人か知らなければ返事はできないと巌に会うことにします。
 外国での生活が長かった捨松は、薩摩訛の強い巌と日本語でコミュニケーションをとることが難しかったそうです。
 困った二人は英語で会話を始めます。巌は留学経験もあり、英語を流ちょうに話せたそうです。そして、日本人が西洋と肩を並べるためには、外国語や西洋風のマナーを学ぶ必要性があると思っていました。亡き妻との娘たちの教育に、捨松の力を必要としたのです。
 単に若く美しいだけではなく、自分が努力して身につけた力を必要としてくれる。それは、女だからという理由で、能力があっても働くことができなかった捨松にとってうれしいことではなかったでしょうか。
 ふたりは、とても仲のいい夫婦となったそうです。
 捨松は、洗練された西洋風のマナーとジョークも交えた英語で鹿鳴館の華と言われ活躍し、女子教育のために奔走する津田梅子に資金援助等の協力もしました。
 生涯独身を貫き、女子教育に力を注いだ津田梅子の潔い生き方も、十代の頃はあこがれました。
 それでも、どんな過酷な状況の中でもしっかりと根を張り、自分のできるベターな生き方を模索した捨松は、可憐でたくましいたんぽぽの様な人だと思うのです。
 
 学校では男女平等と教わったのに、あまりの男社会の現実に時々心折れそうになる、ジェンダー・ギャップ指数120位(156か国中)のこの国で、明治の時代最初の女子留学生たちが直面した苦悩と大山捨松の人生に思いを馳せながら、今日もたんぽぽと格闘しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?