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鱗を見た

私は散歩をする。
植物を見るのが好き。散歩している犬を見るのが好き。本当は触りたい。

私は空を見る。少し首を上に向けて空を見ると、青と雲が見える。

雲はいつも形を変える。いつ見ても違う姿をしている。私はそれにいつも驚く。今日の雲もとんでもなく美しかった。


首をできる限り上に向けると、空の範囲が視界の8割になる。
とってもきれい。美しい。恐ろしい。

雲が見える天気であれば、上を見るとそこはいつでも絵画のような世界が待っている。
私はそれにいつも驚く。

美しいものと恐ろしいものは表裏一体だと何処かで聞いたことがある気がするが、雲はそれを私達に見せてくれるものだと思う。

『怖い絵』というタイトルの本がよく売れていた記憶もある。
自分の子供を喰らうギリシャ神話の神の絵など、恐ろしいことこの上ないが、目を逸らしては何度も見てしまう。


私は自分の記憶にある限り、一番美しくて、神秘的で、怖かった、雲の思い出がある。

高い場所にいたのだが、自分の左右両側の空に、龍の骨のような雲が発生していたことがある。

記憶が定かではないが、確かこれと似たような変わった形の雲の、発生する天気の条件をTVで天気予報士さんが解説していた。科学的にそれが証明されているとしても、非現実的な、あまりにも美しい骨だった。

その龍は長く、私が背に乗って飛ぶには、胴が太く、すぐに振り落とされてしまうほどだ、と思った。

この骨に肉づいた龍の姿は、それはそれは神秘的で、美しいだろう。

だが、雲は骨の形をしている。
あまりに大きく、空に浮かぶ。骨というのは、死んだものの象徴である。恐ろしかった。

恐ろしく、美しかった。

ただ、私はあの龍の鱗を、確かに見た気がする。

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