自由診療と保険診療 その③ 根管治療

さて、今回は日本人に馴染みのある「根管治療」について書いてみます。

まずなぜ冒頭で日本人に馴染みのあるという書き方をしたかと言いますと
日本人の口腔内には根管治療が行われた歯が多数存在すると言われています。
ある人の話では日本人ほど根管治療を受けてきた国民はいないと言ったり
あるアメリカ人歯科医師は、日本人はなぜこんなにも処置歯が多いんだ?と
言ったり色々な話を聞いたことがあります。

個人的にですが、世界で1番根管治療を受けているのは日本人ではないかと
思っています。(実際に統計を取った訳ではないのであくまで推測です)

その背景には、保険診療があります。
つまり誰でもどこでも気軽に神経を取って被せる治療が受けられる訳です。

ここで、日本の保険診療は凄い、日本は素晴らしい国だ!
恵まれてるな〜と思った方、実はそういう訳ではないんです。


仮に、虫歯が原因で前歯の神経を取ったとしましょう。
保険診療の場合、3割負担の方なら700円ぐらいでしょうか。
(数十年前から同じだったりします)
マクドナルドのセットが注文できる値段でしょうか。

(点数のお話はまた別の機会に後述します。数十年前からアップデートが停止しています。)
(根管治療の詳細についても書ききれませんので後述します)

物価は違いますが海外の根管治療にかかるコストを紹介します。
これは少し前のデータなので今は物価も高騰しているのでもう少しかかってくるでしょう。

かなり大雑把ですが大凡の平均値がこのぐらいかと思います。

日本     2500円
東南アジア  7万円
アメリカ   10万円(専門医は20万円)
ヨーロッパ  10万円専門医は20万円)

高いなと思うかもしれませんがこれが世界の標準価格なのです。
コストと時間がとてもかかる治療でもあり、特に高度な技術、専門性を
必要とされる治療の一つです。

国によっては根管治療の専門医という、毎日根管治療ばかりしている
それだけに特化した先生もいます。

アポイントの時間も最低90分は必要です。
奥歯ならもう少し時間が必要です。

網目状に広がる歯の神経の部屋をお掃除するには時間がかかります。
下記の画像は神経の部屋に墨汁を入れたとある清書に載っている画像です。

単純な一本だけのシンプルな形態の方は基本的にいません。
根の先で管が分かれていたり、側枝と言って横に伸びる枝がある事も
少なくありません。


網目状に広がる歯の神経


では、この厄介な神経の部屋のお掃除にどれだけの時間と根気が
いるかです。世界基準の治療ですと、基本的に一本の根管治療であれば
90分ぐらいの時間を確保して一回で掃除を完了させます。

これを仮に日本の保険診療の範囲内でやろうとするとそもそも90分
確保することが難しいです。もしやろうと思ったら歯科医院が倒産して
しまうと思います。

2000円から3000円の報酬に対して歯科医師と歯科衛生士が90分付きっきりで
治療にあたる。当然ですが準備片付けもあります。
時給換算したら日本の最低賃金を遥かに下回ること間違いありません。
当然スタッフを雇用できません。

では、どのように治療を進めるかと言うと一回のアポイントを短くして
治療回数を増やすしか方法が無いのです。
一回20分で4回、5回。あるいは一回15分で5回、6回。

一本の歯の治療の中の根管治療というパートだけで何度も通院した経験の
ある方は多いと思いますがこれが理由かもしれません。

歯医者は何度も通院させるって思われる方が多いと思いますが
そうせざるを得ないのかもしれません。
我々は皆早く治療を終わらせてあげたいと思ってはいますが
この「保険診療」という「ルール」に従うしかありません。

さらに、根管治療というのは本来一度に沢山進めてなるべく
回数を少なくして治療を完了させるべきと言われています。
これは細菌感染、虫歯菌が入るリスクを減らすためでもあります。

何度も何度も蓋を外したり、患者さんがうがいをしたり、唾が入ったり
したら当然ですが唾液に乗っかって虫歯菌は歯の中へ侵入します。

ラバーダム防湿というテクニックを施し唾液が入らないようにしたとしても
100%防げるものではありません。5回も10回も蓋を外しては少し進めてでは
一向に綺麗にならないかもしれません。

この根管治療の診療報酬は数十年前からほぼ上がる事もなく
評価もされず国民の認知度も低い治療です。
しかしこれが現在の保険歯科治療に対する評価なのです。
恐らく今後も上がることはないと思われます。

点数が低い、大変なのに仕事にならないと思う歯科医師が
増えれば増えるほどしっかりとした根管治療が施術されず
いい加減に治療されるケースが増えるでしょう。
これは地域関係なく日本中どこでも同じです。

目に見えない治療の一つでもありますので患者さん側には
根管治療をしっかりやってくれた、上手くやってくれなかった
といった治療の良し悪しは分からないと思います。

しかし歯の治療の中で1番大切な治療であり、上手く処置をしなければ
数年後に痛い目に会うかもしれません。
建築に例えれば外観は良いが内装の中がスカスカで柱の強度が不充分
で雨漏りしているようなもんです。

我々が日々行う根管治療も99%が再治療です。
つまり以前どこかの先生がされた根管治療を再び
自院でやらなければならない訳です。
残念ですがこれが現実です。

治療の難易度も再治療になれば格段にあがります。
当院でも治療困難になる場合もあります。

今も昔も保険診療、自由診療に限らず丁寧に根管治療をする
先生は沢山います。自由診療はしっかりやって保険診療は手を抜く。
これは難しいことです。なぜなら技術がある先生が手を抜くことは
大変難しいですし、技術がない先生が自由診療で根管治療をする
ことも難しいです。

我々臨床家には「良心」と言うものがあります。
決められたルールの中で最大限できる事をしたいという気持ちがあります。

根管治療も歯周病治療も「歯科医の良心」がなければ難しい治療です。


また時間がある際に自由診療と保険診療の仕組みについて書いてみます。

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