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『居酒屋の失敗』第七章「居抜き物件の売却」2.居抜き物件売却までの実際の道のり


2.居抜き物件売却までの実際の道のり

(1)オーナーのOKが出るまで

①物件のおさらい

 さて、これまでざっと一般論を書いてきたが、ここからは、いよいよ実際の売却までの道のりを紹介したいと思う。かなり険しかった道のりを。
 まず、自分の物件についておさらいしておく。立川駅から徒歩約8分の路面店で、広さは約15坪、家賃は坪当たり約1.5万で税込み約24万円(当時消費税は8%)と概ね相場通り。多少繁華街から離れているとは言え、立川駅周辺で、これくらいの物件はなかなか簡単に出て来ない。

 元はスペインバルの居抜きだったが造作は無償譲渡。かなりくたびれていて使い勝手も悪かったため、約1,000万円を投じ、主に古材を使って内・外装をほぼ一新。エアコンも1台新設し、厨房機器も食器洗浄機以外は新品で、ほぼ1年しか使っていない状態。余程金額を欲張らなければ比較的簡単に売れると踏んでいた。

ほぼスケルトンにしてからの内装工事

②いきなり勝負を懸ける!

 いよいよ売却活動の詳細スタートである。まず、活動開始時期だが、マックスで営業が続けられる期限を10月初旬と設定し、解約日の3ヶ月前という解約通知の期間も考え、5ヶ月前の5月から動く事にした。

 そして、まずやったのは、なんと…

 いきなり勝負を懸け、イチかバチかでオーナー側に「居抜きで売却して良いか?」を訊いたのである。

 「今までの文章は何だったんだ!」と言われそうだが、結局は、「オーナーを説得出来るか」が一番のキモである。自分の場合は、上階の住居オーナーは、偏屈極まりなくまともに話も出来ない状態だったが、テナント部分のオーナーは、きちんと社会常識を持っている方で、自らも商売をやっている故、商売の大変さも承知しており、これまでのやりとり等からこちらの窮状を理解してくれるだろうと踏んだのである。
 また、直接ではなく賃貸の仲介不動産屋を通して話を持って行った。これまでも様々なケースを経験しているだろうし、素人同士で話すより絶対スムーズに行くと読んだのである。

 そして、結果だが…

③勝負の結果は…

 見事読み通りにこちらの事情を理解してくれて無事にOKが出た。不動産屋とオーナーには、ドライではない、かなり人情味のある対応をして頂き助かった。
 余談だが、物件は不動産屋の店頭で見つけたのだが、最初に申し込みを入れて以降、店に顔を出すタイミングがある度に手土産を持って行き、不動産屋とは、かなり良好な関係を築いていたのである。

 そして更に交渉して解約通知は暫く待ってもらう事に成功した。更に畳みかけるように、居抜き売却専門の仲介業者を使う事、そのサイトに物件を載せる事も許可をもらった。
 更に解約を待たずに次のテナントと契約したら違約金も解約までの家賃も要らないという事になった。ここまでは、ほぼ完璧な条件と言えるだろう。

 一方、マイナス面としては、やはりオーナーの「和風居酒屋嫌い」の影響で業態の制限が掛かり、内装が超ド級和風居酒屋にも関わらず、次のテナントは「和風の居酒屋はNG」と条件が付いた。
 また、営業時間が0時までというのも変わらず。換気扇の問題に起因するランチ営業の実質禁止状態は、明確に結論が出ず不透明なままであった。
しかし、とりあえず売却に向けて正式スタートとなったのである。

 売却希望価格は、一発目なので期待も込めて300万円にする事とした。

(2)売却活動:人脈編

①少なすぎる人脈をたどって

 まずは、最もメリットのある飲食関係の人脈をたどって買い手を探す事にした。
 しかし、自分はかなり人脈が少なく、更に移転や多店舗展開を考えてない個人店の人達がほとんどで、結局具体的に話が出来たのは2件だけだった。

 まずは、子供のクラブ活動で知り合いになった、人脈の中で唯一5軒くらいの多店舗展開をしている居酒屋グループの役員さん。開業前から色々相談に乗ってもらっていた事もあり、金銭的な条件も良かったため、初めは結構スムーズに話が進んだ。
 ただ、ネックは先方が「和風の居酒屋業態」という事と、買い取りではなくサブリース的に店を借り受け、売上に応じて分率で家賃的に金を払うというスタイルだった事。「和風居酒屋以外」という条件以外にも、賃貸借契約にサブリースや業務委託的な使用を認めない条項が入っており、そこに抵触するのである。
 しかし、非常に良い条件だったので、一度オーナー側に当たってみる事にしたのであった。

②人脈1人目

 不動産屋を通して先方の条件をオーナーに伝えてもらったのだが、その結果を聞く前に「やはり買い取らせて欲しい」と言ってきた。こちらとしては希望額が入るならどちらでも良いし、契約上の問題も解決するので、その方向で進める前提で向こうの希望額を聞いてみた。すると、なんと、こちらの希望額の半値以下の120万だという。

 結局先方としてはサブリースでゴチャゴチャするなら物件も良いので買い取りたいという事だったのだが、そうなるとやはり初期費用が大きくモノを言うことになる。そこでネックになるのが「保証金」である。保証金は後に戻ってくるので、大企業で資金繰りに余裕があるなら大した問題にならないが、中小や個人となるとキャッシュの方が重要視される事になり、家賃10ヶ月分で約220万円はかなり負担が大きく、初期費用に出せる総額が決まっているのであれば、おのずと物件の値段が圧迫されて下がる事になるのである。
 しかし、結局のところ、サブリースも和風居酒屋業態もオーナー側からNGの返答。何とも厳しいスタートとなったのであった。

③人脈2人目

 もう1つ頼った人脈は税理士からの紹介だった。会社を作った事もあり一応税理士を使っていた。ただ、会社にした事と税理士を使った事は失敗だと思っているし、彼には色々と思うところが多々あるので、追って別に書く予定である。

 そして紹介されたのがまたしても和風居酒屋の経営者だった。以前は多店舗展開していたらしいのだが、ややあって現在は1店舗のみ運営するも、そろそろ再度の多店舗化をしようかと考えているという人だった。
 しかし、結論から言うと破談というか、交渉のテーブルにもつけなかったという感じであった。1回店で内見を兼ねて会っただけなのだが、とにかく先方は急いでいる感が全くなく、元々自分の人脈でもなかったので、余り突っ込んだ話をする事も無く、金額の提示も無く、最後まで足元を見られているような態度を取られてその日は終わり、その後連絡すら無く自然消滅したのであった。

 結局、そこからは居抜き売却専門の仲介業者を頼る事になっていくのである。

(3)売却活動:居抜き売却仲介業者編

①居抜き売却仲介業者の検討

 居抜き売却の仲介業者は非常に多く、まず「どこを選ぶか?」から始める必要があった。
 選ぶにあたって一つの判断材料となるのがやはりホームページだが、作り自体はどこもある程度費用を掛けているようで、皆それなりに良く出来ている。
 しかし、見るのはそこではなく紹介されている物件の量と質と鮮度となる。もちろん量は多いに越したことはないが、公開物件ばかり扱っているところは正直あまり期待出来ない。やはり独自に未公開物件をどれだけ持っているかがその業者の価値となってくる。また、一般の不動産賃貸と同じで、既に取引が終了したような過去の物件が囮的にいつまでも掲載されているようなところは信用が置けない。

 そして最も重要なのが「手数料」となる。売る側としては、やはり少しでも自分に入るお金は多い方が良いので、当然手数料は安いに越したことはない。しかし、手数料をある程度払ってでも早く売れた方が結果的に得する場合もある。
 ところが大体の業者はホームページに手数料が出ていない。結局「問い合わせてください」となり、問い合わせるとそこからグイグイ営業してくるという算段なのである。

 以上の事に注意しながら、とりあえず良さげな業者を5社ピックアップしてそこから選択する事にした。

②仲介業者5社の比較

 ピックアップした5社は以下の通り。それぞれ手数料や特徴を挙げておく。

【A社】
・手数料:無料 or 売却額の10%
・特徴:居抜き売却とサブリースの選択肢がある。

 居抜き売却の場合、サイトに掲載するだけで自ら売却先を探すような営業活動は行わないが、内見立会いと契約等事務手続きは行ってくれて手数料なしなのでかなり良心的である。

 また、売却ではなくサブリースの相手を探す場合は、一定期間を設けてその間はこちらの希望額で募集し、営業活動もしてもらえる。その期間で話がまとまれば手数料10%となる。
その期間を過ぎるとサブリース用に業者が予め決めた額で買い取るというシステム。一定期間を設けずに即業者に売却というパターンもある。

【B社】
・手数料:売却額の10%
・特徴:純粋に居抜き売却のみ行う。

 基本的に物件を集めてサイトに掲載する事に専念しており、内見立会いや契約等は不動産屋に委託している。取り扱い物件数とサイトの会員登録数は自称最大手らしい。売却出来れば手数料が委託を請けた不動産屋にも入るため、問い合わせ、申し込み等には熱心に対応してもらえる。但し、A社と同様に自ら売却先を探す営業は行わない。

【C社】
・手数料:一律30万
・特徴:中古厨房用品の買い取り、販売に注力している業者。

 居抜き売却と業者が買い取ってのサブリースの2パターン。お試し的に中古厨房用品の買い取りとサブリース買い取りの査定を頼んだが、話にならないくらい安い。手数料が一律30万というのもマイナス。

【D社】
・手数料:不明
・特徴:サブリースがメインでサイトでもその実績をかなり宣伝している。

 手数料等不明な点をメールで問い合わせるも全く音沙汰ナシ。

【E社】
・手数料:一律50万
・特徴:手数料が売却額に関わらず50万とかなり強気な設定。

 代理店をフランチャイズで募集しており、地域に密着した営業が出来ると言うのがウリ。オークション形式の売却もしているらしいが、ほとんど形骸化しているようである。

③5社からの選定結果と売却価格の設定

 そして5社から選定した業者。

 まず、D社はメールの問い合わせに全く反応なしで、他は即レスポンスがあった事からも無条件で除外。

 次にC社だが、とりあえず査定をお願いしたのだが、そこが買い取ってのサブリースの査定も兼ねているため、物件のマイナス要素ばかりを重視し、希望額300万に対し80万というかなり渋い査定額が出てきた。そればかりか下手したら売れない場合もあるとまで脅された。同時に頼んだ厨房機器類の査定も超渋かったので除外した。

 E社は、姿勢は買えるのだが手数料50万と言うのがとにかくネック。希望額300万円の10%を軽く超えているので、とりあえず最後の切り札的にと考え、最初からは声掛けしなかった。

 結論として、最初に選んだのはA、Bの2社となった。

 A社は、居抜き売却で手数料なしのパターンがあったのはここだけだったので即決めた。そして、一応サブリースという保険的なパターンもあるのも決め手となった。但し「サブリースだと相当安くなりますよ」と言われていたのでとりあえず居抜き売却のみで進める事にした。

 B社は、「まずは無料査定から」という事だったので査定してもらったのだが、概ねこちらの希望額通りだったので、手数料が掛かる分真剣に動いてもらえるだろうと頼む事にした(この時点では不動産屋に委託している事は知らなかった)。

 業者が決まったところで、次はネットで公開される売却額の設定を行う必要があった。とりあえず自分の希望額より少し高めにスタートして段階的に下げていく戦略とし、300万に50万上乗せして350万と設定した。この辺はもうはっきり言って正解がない世界であり「駆け引き」以外の何者でもない。一発で決まればラッキーと思いとりあえず強気で行く事にした。

 そして、いよいよ両業者のサイトに物件が掲載され買い手の募集が始まったのであった。

④募集開始と内見について

 ネット公開されると、やはり「希少物件」で初物という事で内見希望が3件ほどバタバタと入った。一応A、B社のどちらからもヒットした。

 ここで「内見」について簡単に説明すると、個人で部屋を借りる場合も同じで事前に全く物件を見ない人はまずいないと思うが、それと同様に物件を事前に見定めに来る事を「内見」という。従って、あくまで「下見」であり、内見希望が全く無いよりはマシだが過度に期待もしてはいけない。

 そして一番大事な部分。それは「内見後に買わないと決めた場合はそれっきり」という点である。つまり「買います」はあっても「買いませんよ」という意思表示はないという事である。「買います」となる場合は、物件を他に取られないよう即決的に意思表示があるのが通常で、数日経っても反応がない場合は諦めた方が懸命である。
 これは自分が買うときの立場で考えれば簡単に分かる事だが、当初はそれに気が付かなかったために「いつ結果が出るか」と無駄に悶々としてしまっていたのである。

⑤タイプ別内見者の分析

 ここで内見に来る人達をタイプ別に傾向を紹介しておく。

A.チェーン展開している大手企業

 彼らは、予め狙いを付けたエリアに希望に近い物件、例えば駅から徒歩10分以内、路面店、15坪以上等々をクリアする物件が出ると必ず内見しに来るというタイプ。厨房機器も使うものが決まっているので、電気容量などもキッチリ調べていく。

B.多店舗展開している中小企業

 チェーンほどではないまでも複数店舗を経営している中小企業で、やはり良さそうな物件はとりあえず見に来るというパターン。業態をある程度限定するケースもあるし、物件に合わせた業態をやるケースもある。

C.初出店or多店舗展開2,3軒目の個人or小企業

 初出店か現在1,2店舗を経営していて多店舗展開しようとしている人達で、内見もかなり真剣に行うタイプ。

 概ね上記3タイプに分かれるのだが、A,Bについては、制約のある物件だとそれだけでほぼNG。今回の場合、業態と営業時間に制約があったため即NGとなった。かなりシビアなのだが、分かりやすいといえば分かりやすい。
 今回身をもって学ぶ事になったが、くどいようだが制約のある物件は、絶対に借りない方が良い。マイナスにはなってもプラスになることは何一つないと断言しておく。

 内見に来る数としてはA,Bが多いのだが、今回はC限定といった感じとなった。

⑥続く苦戦と解約通知

 そして3件あった内見の結果だが、全て以後の反応は皆無でNG。それ以降内見希望すら無くなり1ヶ月が経過してしまった。仕方なく当初希望額300万まで下げる事にした。するとまたすぐに内見が3件ほど入ったが、やはり前回同様以後の反応ナシであった。

 そうこうしているうちに時間だけがいたずらに過ぎ、遂に解約予定の3ヶ月前、つまり「解約通知」を入れなければならないタイミングとなってしまった。
 仕方なく、とりあえず解約通知を入れつつ価格を250万円まで下げる事にした。そして、不動産屋になんとか頼み倒して当面は居抜き売却のみでの募集にしてもらった。

 更に最後の手段とも言うべきE社の手数料50万の業者にも頼む事にした。そしてまどろっこしいので結論から先に言うと、このE社は全くの役立たずであった。フランチャイズ展開していると言う事で最寄りの営業所が対応するのだが、頼んだ時にはいくつか心当たりがあると言っていたのだが、それ以降全く動きなし。連絡すら一度も無いと言うダメっぷりであった。

⑦A社の内輪揉めに付き合わされる

 そうこうしている内に今度はA社で内見が入った。個人経営の人で物件も結構気に入り申し込みを入れたいという事になった。しかし、色々ヒアリングした結果、どうにも怪しいというか頼りないところが多かったらしく、結局不動産屋に断られてしまった。

 たが、この時から変更になったA社の担当者がサブリース用に高く買いたいと言ってきた。前の担当者に「サブリースだとかなり安く」なると言われていたのでやめた旨も一応話したのだが、「そんな事はないので一度査定させて欲しい」と言ってきた。ならばと言う事で査定してもらう事になった。

 そしていざ査定の日となったのだが、何故かA社の社長が同行して来てどうにも彼の言うことがおかしい。しきりに「早く決断しろ」みたいな事を言って来るのだ。あまりにしつこいので「ちょっと待て」と、これまでの事情を説明し、「今日は査定のみだと聞いている」と伝えた。

 それでも社長は「そんなハズはない!」と言い張るので、「担当者に直接訊いてくれ」と言った。そこで査定に夢中だった担当者を呼び事情を訊くと、当たり前だがこちらの言う通りだと言う。
 すると社長が「この場で即決の話だから金額交渉を頼むと聞かされて来たのに話が違うだろ!俺に恥をかかせるのか!」と担当者にキレ出した。

 そんな事は、こちらはどうでも良いので「じゃあいくらなら買うのか?」と尋ねた。しかし一度キレた社長は意地になり、「120万じゃないと買わない」と言ってきた。その代わり1週間で買ってやると言うのだ。
 かなり悩んだが、家賃や経費を考えると安くても早く売れば総額的には変わらないので、一応OKした。しかし、そこにはまたしてもオーナーの高い壁が待っていたのであった。
 結局のところサブリースはやはりNGとの事でこの話はA社の内輪揉めに付き合わされただけで終わったのだった。
 そして「オーナーと交渉を上手くやる」と言う業者の謳い文句も「上手く」どころか交渉すらしないといういい加減ぶりで全くアテにはならないという事が図らずも立証されたのであった。

(4)売却活動:仲介不動産屋編

①やっと申し込みが入る

 解約通知を入れると不動産屋がまずやる事は、業界内のサイトに空き物件として登録するという事。これによって物件は市場に出る事になり、希少価値こそ無くなるが、物件を探しているより多くの人の目に触れる機会も増える事になる。そしてこれを機に価格を200万まで下げた事もあり、内見が目に見えて増えるようになった。
 居抜き売却仲介業者からの紹介もあったが、不動産屋からもあり、やはり市場に出た効果があったようだった。

 そしてやっと1件申し込みを入れたいというまともそうな買い手が現れた。料理人歴は長いが、今回が初の開業という人だった。業態はイタリアンとの事で和風居酒屋ではなくオーナーの壁も越えられそうで、何より不動産屋経由というのがオーナーには強そうだった。
 結論を先に言うと、結局この相手に売ることになるのだが、これがまた簡単に進まなかったのである。ここからは、居抜き物件を売りたい人も買いたい人も必読の売却までの険しい道のりを書いて行きたい。

②「申し込み」とは?

 ここで居抜き問わず、物件を借りる際に必ず必要となる「申し込み」について簡単に説明しておく。「申し込み」とは、文字通り「借りたい」という意思表示を仲介の不動産屋に行う行為である。申し込みを入れるとそこで初めて「物件取得の交渉権」が発生し、具体的に交渉を進めていける事になる。

 そして申し込みが早い方に優先交渉権が生じる。人気がある物件で申し込みが殺到するような場合はオーナーが最も望ましい相手を選ぶ事もあるが、基本的には早い者順となる。以降申し込みを入れた人は、いわば「順番待ち」となり、先の申し込みが破談にならないと交渉権が得られない事になる。従って、良い物件だと思えば速やかに申し込みを入れるのは、物件を借りる上では必須である。

③申し込みの相手

 実は、ほぼ同じタイミングでもう一人申し込みを入れたいという人がいた。店にも2度ほど来るなどかなり熱心で好感の持てる相手だった。しかし、残念ながらタッチの差で先の申し込みを優先させる事になった。
この人は、買い取り価格は150万円までしか出せないと事前に申告し、申し込みの際に不動産屋経由で保証金を下げて欲しいと申し入れしたとの事だった。
 一方、先に申し込みを入れた相手は、条件面では何も意思表示が無く、居抜き売却額、保証金とも提示通り受け入れると判断し、順番通りに具体的に話を進めて行く事になったのである。
 結局後からの申し込みは、保証金の件がオーナーにはマイナス評価だったらしく、最終的には申し込みを辞退せざるを得なくなってしまった。

 話を進めていく上でまず家賃の支払いに関して保証会社を通さなければならず、そのためには保証人が必要だったがそれはアテがあるらしく難なくクリア。しかし、同時に資金計画も審査されるのだが、ここで引っ掛かったとの事でかなり気をもんだ。
 しかし、契約している税理士が信金に顔が利き、運転資金の融資を受ける事にするので大丈夫だろうという事になりなんとか一安心した。

 また、この相手は初の開業にあたり法人を立ち上げたらしく、料理人で実際に店を回す人と、投資と経営だけ行い、店の実務にはタッチしない人との2人の会社のようだった。
 そしてその経営の人間は当初の内見には来なく、後でまた店を見に来た際に同行してきたのだが、ろくに挨拶もなく、何かと「なんだこの物件は」とばかりにマイナスな点を挙げ連ねるといった上からの態度がやたら目につき、正直言って異様に印象が悪かった。しかし、その時はあまり気にも止めなかったのである。

④まさかの「後出しじゃんけん」からの商談完了

 それからも内見は続いたが、申し込みには至らない相手ばかりであった。

 一方、交渉中の相手は、後は融資待ちという不動産屋の言葉もあり一応は安心していた。そして、店を閉める準備も着々と進み、次なる事業の準備も進め始めていた。
 ただ、自分としては、念のためではあるが、常に不動産屋には「相手が募集価格で買ってくれるのか」は都度確認を入れていた。当初から価格を下げて欲しいという話は無かったが、やはり言質は取っておきたかったのである。

 と、そんなある日、不動産屋から連絡があった。そして内容を聞いてみると…

 なんと、買い取り価格を80万円にしてくれと言ってきていると言うのだ。更には保証金まで下げろと言っているらしい。聞いてみると、金だけ出している印象の悪かった男が今更になって「高い!」とか言い出したらしい。

 もちろん相当アタマに来た。しかし、他に申し込みもなく、物件も募集からかなり日数も経って新鮮味も無くなり、価格もかなり下げないと買い手が付かない手遅れのような状況だった。

 仕方なく不動産屋には「相当アタマに来ているし、本来なら白紙に戻したいがもうそういう状況でもない。はっきり言ってこんな非常識な事を平気でやる連中には売りたくないが、こちらも事情があるので仕方なく売ってやる。但し、そこを含めてもう一度考え直して来い」と相手に伝えるよう頼んだ。

 すると、数日して料理人の方から不動産屋経由で詫びが入った。
 「今回は大変失礼した。実質的に権限があるのは自分の方なので考えを伝える。150万で売ってもらいたい。保証金についても考え直す。どうしてもこの物件が欲しい」という事だった。
 それならばと、こちらもその条件を飲みやっと商談がまとまったのだが、そこからも何だかんだと「融資が中々おりない」等でさんざん引き渡しを引き延ばされて解約日を過ぎてしまい、予定より2/3ヶ月分の家賃が余計に掛かってしまった。
 しかし、これでようやく約半年に渡る居抜きの売却が終わったのであった。

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