「大学に370人の遺体がある」東北大バングラデシュ留学生に現地の状況を聞く
バングラデシュにおいて、学生による抗議デモが急速に拡大し、それに対して苛烈な弾圧が加えられたことが話題になっている。しかし、日本のメディアにおいて、その実態はほとんど報じられていない。
私はパレスチナ問題に関わってきたことで、かなりの数の在日バングラデシュ人とInstagramなどを交換しており、かれらのストーリーを見ることで現地の状況がひどいことは断片的に把握していた。しかし、昨日バングラデシュから来た留学生に話を聞いてみると、現地の状況は私が想像していた以上に悲惨なものだった。
そこで、その時のインタビューについて記事としてまとめ、公開する。本来であれば、信頼できる記事とするためには、正確なインタビューの書き起こしであるべきだが、私のひどい英語のせいで、書き起こすと冗長にならざるを得なかった。そこで、かなり要約をし、順番を入れ替えたりしたうえで本人によるチェックを挟み、私が勘違いしていた部分を補足したり情報を付け加えた。十分な事実関係の調査はしていないが、とにかくバングラデシュの現状に目を向けてもらうために素早く公開することを目指した。
このインタビューに応じてくれたKくんは、テスト期間の忙しい時間を縫って取材に応じてくれ、多くの現地の情報を共有してくれた。
日本でバングラデシュの状況がきちんと報じられていません。私たちのような学生運動をやっているグループはもっと詳細な情報を必要としていますが、どの情報を信頼すべきか分かりません。あなたが知っていることをなんでも話してほしい。そして、多くの学生が亡くなっているその一方で、日本の学生の大半はこのことについてまったく知りません。こうした状況を変えるために、あなたの言葉が必要です。
まず、政府によってインターネット、テレビ、新聞などの全ての情報が5日間(18日~23日)にわたって遮断されていた(communication blackout)。いまも、SNSをはじめとしてインターネット上の情報は次々と削除されている。僕が見ている情報は、バングラデシュの人々がインドのインターネットを利用して拡散しているもの。
5日間、唯一機能していたのはテレビのひとつのチャンネルだけだった。それはもちろん、政府寄りだったからこそ、報道が許されていたにすぎない。もちろん、遮断されたのは情報だけでなく、あらゆる道路なども通行できなくなった。
政府の発表によれば死者は200人足らずだが、実際は何倍もいるだろう。百人単位の死者が出ている大学(ダッカ医科大学では370人の死体が報告されている)もあり、そうした情報だけでも、政府の発表が非常に低い数字であることが分かる。
弾圧はどのようなものだったの?朝日新聞の記事ではヘリコプターが無差別に発砲したとある。
広場や通りに集まった人々が警察のヘリコプターや装甲車で無差別に銃撃された。政府は私たちのことをテロリストと呼んでいる。幸いにも友達に怪我をしたり死んだ人はいない。でも、友達のさらに友達となると、多くの人が亡くなった。
抗議行動がここまで大きくなったのはなぜ?
今回、このように抗議活動が展開されたのはバングラデシュの公務員のうち30%を独立戦争の退役軍人とその子どもたちのための枠にするからだ。これは2018年に反対の声が大きくなって政府が撤回した政策なのだが、最高裁判所がこれを覆した。
バングラデシュの公務員は毎年3000人の枠に40万人が申し込むほど競争率が高い。そのうち1000人を6%のために割り当てるのだから、これだけの規模の反発になるのは当然だ。そして、2018年からずっと抑圧されていて溜まったものが噴出したのが今回だ。
過去には国政選挙の管理をするなど、バングラデシュの裁判所はかつては中立だったようだが?
国会が最高裁判所の判事を解任する権利を与える法律が廃止されたことによって、バングラデシュの第21代最高裁判所長官が辞任を強制され、その後最高裁判所は自由ではなくなってしまった。政府はこのクオータ制の復活をずっと目論んでいて、政府のものとなった裁判所を利用して実現させた。
これだけ多くの人が抵抗しているのに、AL(政府与党)を支持している人がいるのはなぜか?
まず知ってほしいのは過去3回の選挙がすべて不正なものだったこと。実際に支持する人は非常に少ない。80%の人が投票に行ったと言われるのに、実際の投票率は40%と発表。ALを支持する人たちは、政府の汚職や腐敗によって利益を得ているからだ。
退役軍人のためのクォータとは言うが、実際はそうではなくてALの支持者に有利なように定義されている。これが実行されれば、公務員のポストを汚職のためにどんどん使うだろう。たった6%の人が公務員の30%の雇用枠を独占できるようになってしまう。
ALへの反感は、インドとの距離の近さにもある。経済的な利益から、どんどんインドに接近しているが、国民の大多数はそれをいいことだとは思っていない。国が壊れる、とみんな言っている。
2009年のBDR(バングラデシュ・ライフル隊)反乱の際には多くの軍関係者が殺されたが、ハシナ首相はインドのRAW(Research and Analysis Wing)の助けを借りてこれを進めたことはよく知られている。この事件の後、バングラデシュ軍はハシナの強い支配下に置かれた。
この反乱は僕の家のすぐ目の前でも戦闘が起こって、5歳の僕はそれを見ていた。
今回の抗議活動についてもうすこし詳細に聞きたい。野党のDNPの幹部が拘束されたが、学生たちは野党と手を組んで組織的に抵抗運動をやったのか?
いや、そんなことはない。大学でのデモの発生は自然に起こったことだった。BNPはそれをすこしサポートしただけにすぎないし、学生たちの主張は「クオータではなく実力で」という非常に明確なものだけだった。今回の抗議行動は事前に準備されていたようなことはなにもなく、あらゆる都市で同時多発的に突然広がった。
. 学生たちは、この抗議活動が他の政党とは無関係であり、普通の市民が自分たちの権利を取り戻すために行っていると繰り返し強調している。2018年の抗議活動は警察によって多くの死傷者が出るほどの残虐な方法で鎮圧されたが、今回は7月15日に1日で56人の死者が出た。
ロンプール(北西部の都市)のデモで警察によって学生が銃撃され、最初の死者が出たことで、この抗議活動は学生のものではなくなった。バングラデシュは膨大な人口を抱えているが、そのなかで公立大学に進学する人はわずか1%。国の将来を担う貴重な学生の命が失われたということで火がついたと思う。この死者をきっかけに多くの市民や労働者がデモに参加した。
学生のデモはどこでおこなわれていたの?キャンパス?
キャンパスでも行われてはいたが、すぐに街全体にデモが拡大していった。
首相が撤回を表明し、とりあえず今は状況が落ち着いている。しかし、多くの死者が出て、逮捕者も出てこれを無駄にはしたくないと学生はみんな思ってる。弾圧は続いているが、必ず次の動きがあると思う。
抗議運動を主導した人たちはいまどうなっている?
議のリーダーたちは政府機関や他のグループによって拘束され、拷問を受けて抗議を中止するように強制された。一部のリーダーはペチジン注射を受け、緩やかな中毒を引き起こされた。これは自国民に対する非人道的な行為だ。
バングラディシュの情勢を知るためにいいメディアはあるか?
TheFrontPageとNutshellTodayというのがいいと思う。どちらも、僕と同じような年の人たちによって運営されていて、僕の友人たちも参加している。新しい世代のためのメディアだ。
私たち日本の学生はなにをすべきだろうか?
いま最も重要なことは人々に状況を知らせ、メディアの関心を引くこと。できれば、より多くのプロテストが日本で行われ、日本政府がこれに注目し、バングラデシュ政府に圧力をかけて学生たちを助けることだ。
インタビュー終了後、彼の持っている動画などを見せてもらった。とても掲載することはできないが、撃たれる学生、警察がゴミをどかすように死体を運ぶ動画などが多数あった。そして、彼に招待してもらった学生メディアのチャンネルでは、行方不明となった学生を探す投稿が延々と流れ続けている。この状況に私たちは無関心でいてはいけないと思う。
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