顔は。(#キナリ杯)
私は昔、転校生になった経験があります。
中学1年の冬。田舎で生まれ育った地を、父と母が離婚したせいで離れなければいけなくなりました。
父を捨て、友達を捨て、熱中していた部活を捨て、大好きだった家をも捨ててきました。
都会へ持ってきたのは、母と、姉ふたり。
小学生の頃、新学期に転校生が来るかも!とワクワクしていたあの気持ちとは反対に、当事者となれば吐き気がする程の緊張に見舞われます。
姉が持っていた"ライフ"という、いじめを題材にした漫画を読んだばかりだったからです。
母譲りの心配性を兼ね備えた私はいじめられる未来しか見えません。
しかし、そんな心配はすぐになくなってしまうのでした。
転校先は暖かく迎えてくれる優しい友達でいっぱい、先生はユーモアがある、部活は厳しいけど上を目指しながら頑張ろう系、先輩に美人もイケメンも多い最高。
控えめに、少しずつ、本当の自分を出していきながら楽しいことや嬉しいことを共有できるような友達ができました。
先輩に通学路でも挨拶しなかったらバーカ!と叫ばれながら石を投げられていた田舎の方がいじめ寄りだったのではと思いますが、それは既に捨てた思い出です。
私はもう、都会の中学生になりました。
中学3年の夏。同じクラスに女の子の転校生が来ました。私以来の転校生です。
彼女はパワフルな見た目とパワフルな性格でした。
私が転校して来た時はもっとおしとやかにスタートしたぞと思いましたが、心の中にしまっておきます。
しかし意外にも、彼女は生徒先生男女関係なくみんなから愛される人になりました。パワフルパワーすごい。
そして私もだんだん、彼女のパワフルパワーに魅了されていくのです。
しばらくして、彼女は私のことを「エロ顔」と呼ぶようになります。理由は顔がエロいからだそうです。
おやおや、これはいじめっぽい発言では?と思いましたが、それはそれで面白いと思える程になった都会者の私は、彼女のパワフルさに負けて笑いながら流していました。
(ちなみに当時の私は年齢の割にあんなことやそんなことの知識を持っていたので、顔に出てるんじゃないかと思ったりもしました。)
中学3年の冬。もうすぐ卒業を控えたクラス全員と先生とのホームルームの時間がありました。
私のクラスと担任の先生は仲が良く、ホームルーム中でも笑いが絶えません。
わいわいしたホームルームの会話中、私はパワフルな彼女に大声でしつこく呼ばれたのです。
「エロ顔!」
「おい、エロ顔!」
もうっ、こんな時ぐらい普通に名前で呼べばいいじゃん…と私はイライラしてしまいます。
「おいエロ顔無視すんなよ!」
私は、ばんっ!!と机を叩き、立ち上がります。
「エロくない!!顔は!!!」
その後、私はエロい女として無事中学を卒業するのでした。
〜完〜
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最後までお読み頂きありがとうございました!
岸田さんの表現する文が好きです。これからも陰ながら応援しています。
参加させて頂きありがとうございました!
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