カバーニ退団に寄せて

エディンソン・カバーニはPSGにとって(暫くの期間)唯一無二のストライカーであり、最前線の守備者であった。「ゴール前の殺し屋」としてはちょっぴり頼りなかったかもしれない。それでも、声援を送りたくなる、ゴールを決めれば笑顔になれる、胸を張って誰かに自慢したくなる、そんなエースだった。ありがとう、エル・マタドール。これからの道程に幸多からんことを。


「事実は小説よりも奇なり」の出典は、バイロンによる未完の長編叙事詩『ドン・ジュアン』らしい。個人的に、これは真理を言い当てた鋭い言葉の1つだと思っていて、しばしば思い起こす。人生には「信じがたいイベント」が数多ある。2020年が始まった時点では、数ヶ月後に社会が崩壊しかけているとは夢にも思わなかったし、まさかそれをもたらすのが「疫病」だとは。もう半年前の話というのも信じがたいが。


エディンソン・カバーニがパリにやってきたことは、筆者にとってそういう出来事の1つであった。

なにせ、2013年(12-13シーズン終了時)の「今キテるストライカー」といえばナポリのカバーニ、アトレティコのファルカオ、だった。2013年夏。イブラヒモヴィッチとかファン・ペルシ、マンジュキッチが世界最高峰にいて、アンジにいたエトオがチェルシーにきた。カバーニとファルカオ以外の要注目ストライカーというとスウォンジーのミチュとかだった。マンチェスター・ユナイテッドの新指揮官はデイヴィッド・モイーズだと発表されていた。“81本のクロス”で世界にその名を轟かせた、“フットボール・ジーニアス”モイーズである。(悲しいかな、こうして散らかすと、まあ一昔前という感じがする。)

あの頃はPSG自体が(日本ではまだまだ)急に金持ちになった謎のリーグの謎のクラブみたいに認識されていたと思うし、一ファンとしても、新進気鋭の点獲り屋が新天地にパリを選んだという事実に驚いた記憶がある。


思い出を挙げていくと、右ウイングで活躍してるのになんかパッとしない時期もあった。SDに就任したクライファートに何故か背中から撃たれてキレた(カバーニがじゃなくて筆者が、です)。例の6-1の試合では、最後まで一人戦い続ける姿は美しく、ある意味で空しかった。リードされながらネイマールが退場したル・クラスィク、終了間際に直接FKで同点弾をもたらした姿にアツくなった。「お前がエース!」。久々にゴールを決めた2月のリヨン戦、西達彦氏の実況を聴いて感極まったのは私だけではないだろう。いつもクールに状況を分析される西さんが荒ぶるのも含めて最高だった。西さん、本当にありがとうございます。「求めていたゴール、見たかったゴール、みんなを幸せにするゴール!」

リーグアン通算得点クラブトップという記録はエンバパがあっさり抜くかもしれない。そういう儚げなところが好ましい。

ゴール数だけ見ると相当決めてるが、実際に試合を観てるとめちゃくちゃ外すので、ぶっちゃけ「なんか騙されてる?」と思うこともあった。なんか15-16か16-17か忘れたが、開幕数試合でカバーニがシュート10本で2点、リヨンのラカゼットが5本で4点みたいなことがあった気がする。

まさか、このような「信じられない」形でクラブを去ることになるとは思っていなかった。



散らかり過ぎて全然何を言ってるのかわからないが、とにかく、こんな幕切れになってほしくなかった。カバーニがいないPSGを想像できない自分がいる。

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