いしー

ぼくの食中記

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最近の記事

店を続けるということ

『僕も座って話してもいいですか?』 4周年を迎えた酒場の店主と、その夜初めて杯を交わした。 『スタッフとお客さんと取引先と、店を通じていろんな化学反応が生まれるような。そんな"仲介"のような存在の店にしたかった。幸か不幸か、今は店を始める時にやりたかったようなことができている。』 "店を神格化してほしくない" そう何度も呟いた店主の言葉は続く。 『常連さんは自分と同い年かそれ以上の方が多い。このコロナ禍で常連さんに助けられた。もちろんそれは有難いことなんだけど、このま

    • 缶ビール一本分のトリップ

      朝一の新幹線で京都に向かっている。 前日に向かう予定だったが、直前まで予定を入れていたので夜行バスに揺られる予定だった。予定だったのだ。 時間ギリギリで新宿へ向かう電車に乗った。そのままウトウトしてしまい、気がついたら電車は折り返し梅ヶ丘だった。 ひとしきり自分にがっかりしたあと、そのまま電車で小田原まで行ってみることにした。 小田原駅近くのコンビニでビールを買い、呑みながら散歩をした。誰も歩いていない街中をずんずん進んでいくと、現実と夢の境界線がぼやけていく気がした。

      • ブルーインパルス

        飛行機がすごく近くで飛んでいる、そんな音が聞こえた。 テラスに座っている男女が空を見て写真を撮っていた。少し興味が湧いたが、すぐに別の方に意識が向いた。 その後、その男女が知人であることを知り、少し談笑させてもらった。 『さっき、ブルーインパルスが通ったんです!』 一瞬考えて、それが今日の朝ニュースで見た航空ショーのことだと理解した。 また通るらしいからそのときは呼びます!と笑って言ってくれた。結局自分のタイミングが合わず飛行機を見ることはできなかった。惜しいことをしたと思い

        • 眩しい人

          突然の夕立だった。急いでベランダの窓を閉める。家のソファーでのんびりしていた。 スマホの画面が光る。Facebookからの知らせだ。4年前は水族館に行っていたらしい。確か当時の恋人と何回目かの遠出で江ノ島に行った。キラキラした人で、一緒にいるだけで目に映るものが眩しく見えた。 写真に映る過去の自分はどんな毎日を送っていたのだろう。その恋はもう終わってしまったけれど、当時の自分の写真を見る限りは楽しそうだった。 【過去は全て美しく見えてしまう】というけれど、確かにそうかもしれ

        店を続けるということ

          プロローグ

          宣言解除後はじめての朝。ふらりと寄った店でパンを買った。店の黒板には"Prologue"と書いてあった。 2ヶ月間の自粛が終わり、どこかエンディングのような雰囲気が感じてとれるが、それはインプットする側の至極当然の感情だと思う。飲食店を筆頭に(自分が飲食店だから)何かを提供・アウトプットする側からしたら、この2ヶ月はむしろ“序章"に過ぎない。これからは今までと同じような営業はできなくなる。したくても、できない。(できるお店もあるのだろうけど) 自分の意思でないところで、やりた

          プロローグ

          アメリカンチェリー

          朝ご飯に昨日買っておいたアメリカンチェリーを食べる。氷水で洗って、水気を切って食べる。ちべたい。昨日疲れて寝落ちしてしまった身体に甘酸っぱい果汁が沁み入る。 アメリカンチェリーの大部分はアメリカの西海岸で作られているらしい。カリフォルニア、行ってみたい場所のひとつだ。 4月に高知、5月に福島と盛岡に行こうと思っていた。それぞれかなり楽しみにしていたイベントだったけど、手元に残ったのは飛行機のバウチャーのみ。落ち着いたらどこに行こうか。北海道、福岡、鹿児島。思い切って日本を飛

          アメリカンチェリー

          ミルクセーキ

          自粛解除前の最後の休み。 散歩しようと家を出たものの、諸々の対応などがあり結果職場に。富ヶ谷に週8でいる気がしている。 その後友人のお店に立ち寄る。疲れた顔をしていただろうなあ。申し訳ない。 こんな良い天気の日に長袖シャツを着てしまった自分を歯痒く思う。途中で缶ビールを買ってしまおうかとコンビニに立ち寄るも、自責の念にかられ炭酸水を手に取った。 そうしている間にも仕事の連絡がスマホを震わせる。 『もうダメだ』頭がいっぱいいっぱいになった私は、そのあとの予定を全部真っ白にし、す

          ミルクセーキ

          まぼろしのトーキョー

          instagramのアーカイブで、早稲田の三朝庵が出てきた。 ちょうど2年前に訪れていた。 人生で1番好き"だった"蕎麦屋。 先輩の言葉を借りると、"僕のまぼろしのトーキョー"と聞いて一番最初に思い浮かぶ店。 蕎麦を綺麗にすすれるようになりたいと思っていた当時、仕事の休憩中に電車で一駅先の早稲田までざるそばをすすりに行ってた。ずっとざるそば(大盛り)ばっかり食べてたら、ある日番頭のおばちゃんに"今日もいつものだね"と声かけてもらえるようになって嬉しかったなあ。 その当時の

          まぼろしのトーキョー

          4月8日

          2020年4月8日。 東京に緊急事態宣言が発令された。 この一ヶ月でどれだけの飲食店が消えるのだろうか。成長しすぎた人類に一度"待った"がかかった。様々な店が淘汰され地ならしされた東京には、なにが残るのだろうか。それは果たして"東京"と呼べるのだろうか。 自分の店も今回の禍に巻き込まれているので、記録に残そうと思う。 都から週末の自粛要請が発令され、虫の息となった飲食店が多く、例外なく自分の店も人員カット・営業短縮を余儀なくされた。 割とポジティブなメンバーが多

          雪解けとリハビリ

          『100の出会いより1の別れを忘れられないのが男だと思うんだよ』 自分に言い聞かせるように乱暴に吐いたその言葉から、その日の夜は始まった。 絶対に仲良くなれると思っていたけどお互い意図的に避けていた人がいた。ふとしたきっかけで久しぶりに連絡を取るようになり、この間ご飯に行った。今回で二度目。 控えめな赤提灯がぶら下がっている焼き鳥屋のカウンター。 『この間ホッピーを初めて飲んでさ。それが良かったんだよ』と言いながらナカミを追加する彼女。 仕事の近況から始まり、職場の

          雪解けとリハビリ

          頭がパカっと開く感覚

          前職で知り合った設計士の方と久しぶりにお会いした。【何度かご飯に行く、ほどの関係】だった、その方が最近手がけた店に行く機会があり、『この空間はどんな想いで作ったんだろうか』と疑問にもち、すぐに感想を添えて、 "会いませんか?" と文を打った。すぐに返信があった。 "会いましょう!" 蔵前にある、前職の後輩が開いたコーヒーショップ(この店も、その方が設計している)で落ち合い、久しぶりの挨拶と近況、聞きたかったことをいくつか聞いた。 設計のスタートはゴールを思い描くとこ

          頭がパカっと開く感覚

          開化の音はキュポン

          毎年恒例となった、浅草寺参拝。 "浅草寺は凶が出やすい"という期待(?)を裏切れずに、4年連続で凶を引いている。ここまで続くと5年連続か…!?と淡い期待をしてしまう。 …結果としては"末吉"だった。嬉しいような寂しいような。 顔中に煙を浴び、15円(良いご縁)が放物線を描く。 人の波に乗りながら、『何かうまいもの食べに行こう、正月らしいもの。』ということになり、"米久"に。 "2名様ですー" "ドンドンー" 『正月にビール呑みながらすき焼きって最高だね…』し

          開化の音はキュポン