歴史学者という病

本郷和人
講談社現代新書 2670
2022年8月20日第一刷発行

この本は、東大の歴史学者としてテレビやネット記事でよく見る本郷和人氏の自伝のようなものである。教養系のクイズ番組のわかりやすく面白い解説でおなじみの本郷氏は、実は史料編纂所というとてつもなく地味な仕事を本職としている。少年時代から大学、職員へと育っていくストーリーは、思いのほかうまくいかないことが多く、多様な思考を持つ賢い人たちに囲まれてあれこれ考えるうちに、一つずつ、しかし確実に、持論を為していく。

本郷氏の三つの柱
1.「一つの国家としての日本」は本当なのだろうか?という疑問
古代において大宝律令が定まり、天皇を中心とした中央集権国家ができたということになっているが、実態はずいぶん違っていたようだ。現代の感性で国というものを考えるのは危険である。
2.「実証への疑念」
史料を丹念に実証すると、歴史は一握りのエリートのものとなる。しかしその時代に生きた大多数の人々が歴史を作るはずではないか。その時代の民衆がどのように生きてきたかを深く考察することが、生きた歴史だということだった。
3.「唯物史観を超えていく」
明治維新とともに皇国歴史観が台頭し、第二次世界大戦後マルクス主義的な唯物史観の波が起こる。その後それも落ち着いたが、唯物史観の次の歴史観がいまだに確立されていない。
このように、歴史学とはまだ多くの残された課題があり、とても面白いものなので、若い研究者が増えてくれることを願ってやまないのだそうだ。

著書の言葉で心に残ったことをひとつ書き留めておく。
「歴史とは誰のものか」

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