ため息のプレイブック
「どうでもいいことでうじうじすんな」
「しょうもないこと気にすんな」
「いつまでそんなこと言ってんの」
親によく言われてきた言葉です。
ふと力が抜けると、ため息ばかりついてしまいます。ため息の数だけ幸せが逃げる。僕は何万の幸せを逃してきたのでしょうか。そもそも、僕に何万何億という幸せが元々あったのか、というのも疑問です。
『世界にひとつのプレイブック』という映画が好きです。何度も見返しました。
別れた妻のことをいつまでも引きずっている男パットと、未亡人の女性ティファニーが人生をやり直していくお話です。
家族、人生、再起など。普遍的なテーマで、他にはないロマンが描かれています。そういうものを、ハイ・コンセプトとハリウッドでは言うそうです。「普遍的で、斬新」なコンセプト。まさにこの映画も、そんな風変わりだけど、実直でひたむきな人間模様が映し出されていると思います。
妻曰く、僕はパットに似ているらしいです。
パット役を演じる、ブラッドリー・クーパーにも。顔が似ているのだとか。あんなイケメンで濃い顔に似ていると自称するのは、恥ずかしい話ですが、割と日本人顔というより、母に似て少し異国の雰囲気があるらしいです。
ちなみに母も、純日本人です。純日本人なのに、「外人から英語で話しかけられたわ」「中東の人と間違えられたわ」「ラテンのノリでナンパされたわ」と話しているのを聞いたことがあります。というか、よく聞きました。自慢なのでしょう。ただ、実際にホリの深さはアジア系とは思えないほどで、そのホリが遺伝した僕は、「アオブダイ顔」と言われたことがあります。
アオブダイ、詳しくはお調べください。
そんなパットに、性格も似ている、と妻は言います。
いつも一緒に映画を見ます。見て、大体の基準で点数を付けます。十点中で、何点か。
妻は、『世界でひとつのプレイブック』に、九点を付けました。
「ほぼ十点だけど、一点減点」
なんでかと聞いたら、パットの嫌な部分があなたに似てるから。とのことです。
「過去のこととかずっと引きずってる感じが似てて、やな感じ」
ティファニーは素敵な女性です。
パットもパットで、いい部分もあり、2人とも、欠けた部分もあり、だからこそ魅力的なキャラクターなのですが、特にティファニーは強烈で個性的で、大胆で、印象深い女性です。
演じたのは、ジェニファー・ローレンスという女優さんです。この演技で、アカデミー主演女優賞を獲得してます。若い頃から活躍されている女優さんらしいです。他に何個か出演されている作品は見たことがありますが、どれも体当たりな演技で、ついつい笑っちゃうシーンがあります。「すごいな、この人」と感銘を受けるばかりです。
人気占い師・星ひとみさんの天星術の占いが好きです。今まで外れたことがないくらい、当たっているなとつくづく感じます。割とスピリチュアルなことや、ホーリーなことは信じている方の人間です。おそらく、この世界にも宇宙にも、人間が知覚できない、理解しきれないような、そんな大きな力や流れというものが必ずやあって、そういうものに万物は動かされている。「素粒子論」だったか。宇宙の誕生から今に至るまで、そしてこれからの未来もすべて物事の動きは粒の動きによって決まっている。そんな話を聞いたこともあります。その原理はキリスト教によって否定されたものの、神の思し召しも、ある種、似たようなものがあるとも思います。そして運命というものも、何かしらあって、一目惚れや、直観、第六感のようなものも、なんとなくあるんだろうなあ。森羅万象、輪廻転生、諸行無常。だから、僕がたくさんの幸せを逃してきたということも、同じくしてあり得る話なのかとも思います。
星ひとみさんの天星術では、人間は12のタイプに分けることができるそうです。12のタイプがあり、各々に五つの特徴がある。つまり合計して六十通りのおおまかな人間的特徴を測ることができる。もちろん生い立ちや個人差はあるものの、これがほとんど当たっているから、不思議です。身の回りの人や、今まで出会ってきた人たち、有名人で試してみても、ことごとく当たっている気がして、僕の中で人を見る上での、一つの基準として参考にさせてもらっていたり、します。
朝日、満月、大陸、夕焼け。などの自然にまつわる12のタイプの中で、僕は空タイプらしいです。
空タイプは、世話好きで優しい。負けず嫌い。強いこだわりがある。天然な部分があって親しみやすい。衝動的。決断力がある。そして弱さや不安や陰があったりする。そんな人間らしいです。
大体は当たっているのかなと思います。決断力がある、そこだけは、違うかもしれません。
そして、妻も空タイプです。
妻は本当に当たっているなとつくづく感じます。アパートの内見に行ったときも、部屋に入った瞬間に「ここ」と決めて、説明しようと意気込んでいた不動産の人をむしろ困らせてしまったり。そんな性格です。
ただ2人とも出会って30分後には、結婚しようと決めたので、やはり空タイプ同士、通じるものがあったのだと思います。
ちなみに、空タイプのいちばん相性がいい相手は、空タイプらしいです。
ジェニファー・ローレンスさんも、空タイプらしいです。だからか、なんだかとても惹かれるものがあります。女性として、というより、人として。役者さんだから、まして海外の方だからこそ、本当の姿を知ることはできませんが、それでもなんだか、感じる何かはあるのかもしれません。
作中で、「エクセルシオール」という言葉が出てきます。頻繁に出てきます。作品のキーワードと言ってもいいかもしれません。喫茶店チェーンの名前とおんなじ。エクセルシオールです。
そのキーワードに秘められたもう一つの意味をティファニーが口にするシーンがあります。そこがいちばん好きなシーンです。とにかく、キマってます。サマになってます。胸が熱くなって、誰よりも真剣なティファニーのその様子が、むしろバカバカしくて、ついつい笑っちゃいます。
プレイブックとは、ルールブック。脚本などの意味合いがあるそうです。
「この通りに」というような、そんな決まりや道筋が書かれたもの。そんなイメージかと思います。
『世界にひとつのプレイブック』
そこには、作品そのものを表す、そんな本質的意味合いが込められているのかもしれません。
昨日も一昨日も、落ち込んでました。
今日も、やっぱり、ため息は止まりません。ふとしたとき、何かをしたとき、いま、こうして文章を書いているときだって、気づけばため息ばかり。言葉が出てこなければ、ああもうダメだと絶望に陥るし、書いていると「まとまりがないなあ」と卑下してしまいます。
でも、スキが付くと、喜ぶ単純なバカヤロウで、読み返すと、「割とうまくできてるなあ」とか悦に浸る。でも、直後に、「やっぱり……」と色々考えてしまう。今年で三十になります。思い返せば物心ついた頃から、ずっとそうです。
いちばん最初の記憶は、冬の日に、母と手を繋いでバス停にいるときのことです。
「なんで、白いの?」
母の息が白いことが気になって、僕は尋ねました。
「そういうものなのよ」
母は答えます。
母から出た白さも、そのあと僕から出た白さも、ため息だったのかもしれません。
たぶん僕は、いつまでもしょうもないことで落ち込みます。
思い返せば、やり遂げたことはたくさんあるのに、自分には何もないな、まだまだだな、もっともっと。そんなことを、いつまでも思ってしまうのかもしれません。
貪欲だとか、ハングリー精神とかではなく、単に、自信がないだけなんだと思います。
喜んでも、嬉しくても、褒められても、認められても、次の瞬間には、疑問があります。
謙虚だとか、真面目だからではありません。そんな性格なら、もっと努力していて、たぶんすでに、それなりの成功を収めていたかもしれません。不真面目で、そのくせ生意気で捻くれたところも、そして臆病だから言葉にはしないことも、なのにうっかり口にして、人に嫌われることも、変わりません。疑心ばかりで、だから本質を見ようと時間ばかりかけて、始める前に諦めてしまう。空タイプなのに、空タイプらしくないところも。そのくせ思い立っては行動して、やっぱりいまいちうまくいかなくて、勢いが失せたら途端に不安になる。そしていつまでも、納得できない。そんな空タイプらしいところも。いつまでも、そう。
変わりたい、変われたら、変われたのなら。
いつもそんなことを思ってきました。今も、思ってます。
一日のほとんどを憂鬱に過ごして、半日はうだうだとしている。朝は起き上がるのが辛くて、夜は寝るのが怖い。こんなことを書いても、トラウマやら、やっぱり行き着いてしまうのは、こんな暗いことばかり。
うじうじして、過去のことを引きずって、幼い頃のこと、子どものときのこと、やり直したいこと、人には胸を張れないようなことばかりが、鮮明に、痛みとしてプレイバックする。
バカにされてばかり。そのくせ、敬意や好意は、素直に受け取れない。
死にたいとずっと思ってばっかで、何度もそんなことを試みたりもして。
でも、死ぬ気で、命懸けで、挑んでみた。
そんな経験がいくつかあります。
そしてやっぱり、うまくいかなくて、いじけて。
でも、何度も、立ち直ってきた、のかな。そんなことを、思ったりも、します。
たぶん僕は、いつまでもトラウマを忘れません。傷ついた言葉も、体験も。バカにしてきた人たちのことも。
でも、だから、わかる。
いつまでも、どうでもいいことで、うじうじしている。
しょうもないことを、気にする。
いつまでも、そんなことを言っている。
言葉にはうまくできないような感傷とともに。弱っちい感性とともに。些細な愛情とともに。いつまでも、傷ついて、バカにされて、白い目で見られても、愛して。
そして死にたい。そんな気持ちを忘れたくない。
だから、かけている。
欠けていて、懸けている。
かけているものが、ある。
だから、まだまだ、もっともっと、やり直して、挑んで、本質と、自分の本質と向き合って。過去を引きずって、不安で見通しの立たない未来に何かを見出して、いまを生きる。
物語があって、前を向いて進んでいる。
エクセルシオール。
僕には、僕の。
バカバカしくて、弱々しくて、まがまがしい。でもそこにある、すべてに通ずる、なんだか神々しい何か。その何かが、僕にだけキマった僕だけの何かが。この同じ空のもと、人には人の、僕には僕の、そして世界には世界の、通ずるたぶん何かが、決まりごと。ルール。シナリオが、たぶんあるから。あるのだから、だから、いままで通り。
変わりたい。変われない。そうして、変わっていく。
これまでのように。これからも。
何度も、何度も。
僕は、ため息をついているでしょう。
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