0238:やくみん覚え書き/デトックスの罠

 夕食時にNHKを点けていたら、ニュースに続いて『所さん!大変ですよ』が始まった。テーマはサウナ、あー、興味無いや。私はサウナは熱くて息苦しいばかりに感じられ、嫌いなのだ。フィットネスクラブでもサウナは使ってない。もちろん、サウナ好きな人が心地良ければ、それはそれで良いことだ。他人様を否定する気などない。

 チャンネルを変えようかと思いつつだらだらしていたら、町中アンケートでサウナの効用と思うものの一位が「デトックス」と来て、おっとこれは観なければと思った。ある種のキーワードだよね、デトックス。

 その後、アナウンサーと専門家がそれぞれ別のサウナに入り(なんでやねん)、リモートインタビューで専門家に一位から順番にコメントを付けていた。「デトックスなんてのは、デタラメです(だったか大嘘だったか)」とはっきりコメントしていて、よし、と頷く。そのひとことの後はカットされていたのだが、デタラメとはサウナのデトックス効果のことなのか、デトックス概念そのもののことなのかは、気になるね。他にも「ダイエット」は効果無し、「アルコールが抜ける」は逆効果と、的確に専門家らしいコメントをしていた。結局効果があるとされたのは美肌と疲労回復のふたつ。まあそれだって悪くはないやね。

 モチーフが変わって社員にサウナを奨励する企業が登場。アナウンサーが「この企業ではサウナを取り入れてから売上が四割アップしたそうです(これもちょっと数字は不確か)」というと所さんがすかさず「たまたま売上が上がった時にサウナを導入したんじゃないの?」とナイスツッコミを入れていた。アナウンサーは「いやいや、サウナを入れた後でアップしたんですよ」と応答して話題は流れて行ったけれど、そういうことじゃないんだ。相関関係と因果関係は違う、というニセ科学問題のごく基本的な話なんだ。

 空間除菌だのデトックスだの科学っぽい言説のニセモノ(ニセ科学)は、昔から気になっていた。若い頃はトンデモ理論を笑うだけだったけれど、ある時期から、それでもなおそうしたものを信じる人がいることに関心が向くようになった。「科学的には根拠がないよ」という専門家の丁寧な説明も、ビリーバーの心には響かない。「反対の業界から金をもらっているんだ」などの陰謀論妄想まで使って自分の信念を護ろうとする。「それは何故なのか」という原因の問題も関心はあるが、むしろ「人間とはそういうものだ」という諦観の方が今は強い。行動経済学が明らかにしてきた人間の認知の問題、また近年の反知性主義や陰謀論の支持層の厚さの問題に関わってくる。

 やくみんではニセ科学の一領域である代替医療を登場させる。代替医療には科学っぽい説明を取らないものもあるので、全てが「ニセ科学」というわけではないけれど、科学に基づく西洋医療を拒否して代替医療を信じるならばそれは科学と対立する存在だ。

 科学とは厳密な因果関係の実証手続だ。人類が数百年かけて少しずつ積み重ねてきた「確かなもの」は、個人の安易な感情や直感で覆せるものではない。しかし、人の心はむしろ感情や直感に従う(行動経済学のシステム1だ)。感情に反する科学的知見は「自分を騙そうとする嘘だ!」ということになる。多くの人は教育・教養によって感情を制御し理性的判断を行うことが一定程度可能だけれど、そうではない人もいる。むしろそうではない人の方が声高なことは、例えば「コロナはただの風邪」論でも顕著にうかがえる。

 人は、そのようなものなのだ。理性と感情が同居し、せめぎ合う。個人の中でも、社会の中でも。だとしたら、社会は、行政は、どのような仕組みを構築するべきなのだろう──というのがやくみんの隠れた主線になる。見た目上はコメディ&サスペンスのエンターテインメント小説なので、そこはご安心を。

■本日摂取したオタク成分
『WORKING!!』第4話、どんどん妙なキャラが増えていく。
『デビルズライン』第1~2話、1話の7割くらいまでなんか響くものがなくて切ろうかと思ってた。でもその辺りからちょっと魅力が見えてきて2話まで観た。女子向けテイストのバンパイア物、まあもう少し観続けよう。『所さん!大変ですよ』上述のとおり。

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