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0919:補助金の仕組みと西ノ島町裏金事件

島根県西ノ島町役場で、少なくとも11年間(どうやら更に長く)にわたりいわゆる「預け金」による不正支出があったと報道されている。

記事には「こうした不正経理は国などの補助金や交付金の精算処理が追いつかず、年度内に使い切るのが最も大きな目的という。」と解説されている。この辺り、少し詳しく解説しておこう。補助金は「補助対象事業で支出した額に対し、補助割合に従って、上限額の範囲で交付される」ものだ。

【例】
a:市町村役場が補助対象事業に支出した額=120万円
b:国の補助割合=1/2
c:国の補助上限額=50万円
d:算出額a×b=60万円(千円未満の端数は切り捨て)
e:補助精算額=cとdを比較して低い方の額50万円

今回の「預け金」は、aの金額を操作した作られている。例えば実際には90万円しか支出していなければ、補助金額は45万円。目一杯50万円をもらうためには、鉛筆を舐めてaとして100万円以上を業者に振り込み、領収書を切ってもらわなければならない。そうすると実際には使っていない10万円(国費5万円+市町村費5万円)が浮いて業者に預けられた状態となる。それを別の使途(補助対象事業以外)に流用したわけだ。

背景状況として、「概算交付制度」「年度内精算主義」の説明も必要だろう。補助事業を実施するにあたり現金が必要になる。補助率1/2ならば市町村役場自身の財源が50万円、残り50万円も余裕のある自治体なら一時的に立て替えられるが、小さな自治体ではそうもいかない(大きな自治体だって運転資金を借り入れたら利息が発生してしまう)。そのため、年度中途に概算として補助金が交付される場合が多い。あくまで概算だから最終的な支出額と照らして精算をする作業が必要になる。ところが事業がぎりぎり年度末まで続くような場合だと、微妙なところで事業費が確定しない。一方で、国は3月末までに精算せよ(単年度予算主義)という。市町村役場の場合、精算処理も県を経由しなければならないし、県は県内全市町村の集計まで3月末に終えねばならない。現場担当者はむりくり書類の辻褄を合わせ、本当に年度末の補助金精算業務は修羅場だ(県職員時代に山ほど経験した)。その辺りが記事の「精算処理が追いつかず」という一文に現れている。概算交付された補助金を返還しなくて済む処理をしてしまったのかもしれない。

もちろんこれはルール違反だ。まずシンプルに考えると、町の利害からいえば国費5万円の分だけ有利だが、国の利害からいえば補助制度の趣旨に反する支出になる。次に本来の地方財政制度からいえば、予算主義に反して議会や住民に明らかにされない支出を生むことになる。

今回の事態が明るみになったきっかけは、昨年末に職員から逮捕者が出たことだ。この職員は裏金を私的に着服し競馬などに使っていたという。今回の報道では、逮捕者以外に私的流用事例はなかったとされている。だからといって良いわけではないが、性質が異なることは意識したい。

調べて見ると、西ノ島町は人口2,500人余り、役場職員は72人。狭い離島の狭い職場で長年にわたり裏金作りが慣行化していたようだ。逮捕者が出て世の中の注目を集めるまで、誰も改めようとしなかった、その事実に注目したい。平時に「これはおかしい、あらためよう」と考えた者が、いたのか、いなかったのか。そこにどのような人間集団の力学が働いていたのか。それはまさに公務員小説「やくみん! お役所民族誌」の副流として描く物語のモチーフだ。

先日記事にした広島県職員の実名告発の行方にも注目しているのも、同じ理由だ。告発から半月、HPに目立った動きはなく、気になっている。

https://sites.google.com/view/haguremono/

--------以下noteの平常日記要素

■本日のやくみん進捗
カクヨムで第一話(49)公開。ドラフトに登場しなかった大森雄大のシーン約三千字を書き下ろす。うん、第一話で登場させるなら、やはりここが納まりがいい。お陰でドラフトで書き飛ばしたラストセレモニー省略への接続が自然になったし、野田室長も飴ちゃんおじさんを繰り返せたし。

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積327h35m/合格目安3,000時間まであと2,673時間】
講義動画流し聴き、勉強時間に含めず。

■本日摂取したオタク成分
『照柿』第1話、1995年のドラマか。三浦友和も田中裕子も若い、野口五郎が良い感じでゲスい。昨日まで観てた『ガラパゴス』が整然とした物語だったのに比べて、本作は極めて人間くさいところが魅力か。『ヴィンランド・サガSEASON2』第15話、ついにトルフィンが夢を得る。『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』第2話、今回も良い意味でわちゃわちゃ。やっぱりこれ、昭和末から平成前半にかけてのオタクに訴求するよね。『この素晴らしい世界に爆炎を』第2話、んー、マジカルデストロイヤーズの直後だと少し退屈に感じた(贅沢)。

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