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0503:(GaWatch書評編010)たーし『ドンケツ』

 以前から面白いと評判をあちこちで目にしていた極道漫画『ドンケツ』、先月思い切って全巻一挙購入した。もちろん小説『やくみん! お役所民族誌』の参考だ(が経費で落ちるかどうか昨日のアレでちとこわいな)。

ドンケツ 全28巻
著:たーし
発行:少年画報社(ヤングキングコミックス)

 表紙が全てを物語っている。煙草を片手に唇を歪め額に青筋を浮かべている柄の悪いおっさん──沢田マサトシ。孤月組の組員、つまりヤクザだ。若い頃に敵対組織に単身乗り込んでロケットランチャーをぶちかました伝説の男、通称「ロケマサ」。根っからの筋者、極道。それが実は人情味厚く……なんてことはなく、ひたすら非道い。本作は、彼を主人公とした極道漫画だ。

 第一巻、うーん、非道い。じゃりン子チエのテツをリアルにした感じか。二巻、三巻、非道い。四巻、五巻、六巻……出てくる人間はほとんどみんな極道、暴力に躊躇がない。闘争の世界での力比べ。バキシリーズのような格闘技モノではない。あくまで他人にたかる反社会的勢力の話だ。平和な人生を送ってきた私には、ちょっと読むのがつらいなあ。七巻、八巻、九巻、魅力的なキャラは何人もいるんだけど、ひたすら暴力。これ、面白いといっていいのかな。十巻十一巻十二巻あれ、十三巻十四巻十五巻ページをめくる手が、十六巻十七巻十八巻止まらないぞ? 敵対組織との関係、上部組織の内部抗争、組内の人間模様、舎弟たち。暴力で全てを解決しようとする点では、平板かもしれない。ならば何故、読む勢いが止められないのか? 旧十五夜組との抗争が後半の物語をドライブする。27巻で迎える野江谷の最後の姿。そしてそこから物語全体を収束させる手際。最初の巻からは予想もしなかった重厚濃密な物語で、溜息の出る読後感だった。

 この作品の主人公はロケマサで間違いないが、多数のキャラクターがそれぞれの輝きを放つ群像劇だ。憎めない奴もいれば、憎たらしい奴もいる。強い奴もいれば、武力という意味では弱いが意思に芯の通った奴もいる。それぞれの個性が極めて強く、彼らのぶつかり合いが物語の原動力だ。いわゆるヤクザ映画を私はほとんど観たことがないのだが、本作は間違いなく一級のエンターテインメント作品だ。思わず第2章や外伝も購入し、一気に読んだ。外伝になるとロケマサのマイルドな側面も描かれるが、違和感はなく、キャラがぶれているとは感じない。それだけ本編でしっかり柱を立てているということなのだろう。

 本作の暴力表現は胸に来る。戦争系とか犯罪でもブラック・ラグーンとかは、遠い世界のフィクションとして、自分自身から切り離して受けとめることができる。しかし本作の舞台は北九州、描かれる社会もどうにも自分の生活と地続きのリアルなものに見えてしまう。だから、暴力表現が痛い痛い痛い。ただ一点、逆にファンタジーもある。殺されるキャラは別として、どれだけ激しい暴行を受けても、顔がひどく腫れたり骨折したりするくらいで、しばらくすれば社会復帰する。半身不随とか高次脳機能障害といった重度障害で悲惨な後半生を送るキャラクターは描かれない。さすがにそこまでリアルを追求すると読者の共感が離れてしまうから、敢えてそれは描かないのだろう。ただ、そのために、暴力描写も次第に単調に感じられるようになってしまった。ある意味で読者の感覚もマヒしてしまうわけだ。

 面白いという世評は正しかった。最初の十巻くらいは(まあ面白いけどこの世界は私の感性には合わないな)と思っていたのだが、そんな人間も中盤以降はぐいぐい惹き込まれた。暴力表現が苦手で抵抗のある人には決して勧めない。そうでない人であれば、読んでみるといい。このパワフルな舞台、パワフルなキャラクター、パワフルな物語は、あなたを虜にする筈だ。

--------(以下noteの平常日記要素)

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積208h10m/合格目安3,000時間まであと2,792時間】
実績66分、動画2本視聴。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『パンチライン』第2話、あまり真面目に観て無かった(真面目に観る必要はない作品)が、勢いはいいなあ。『月とライカと吸血姫』第10話、宇宙飛行士選抜。『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』第2話、うおお、やっぱ面白いなあ。『ハコヅメ! 交番女子の逆襲』アニメ版第2話、これ、1話も凄いと思ったけど、2話も凄い。原作者は元女性警官なのか。自分の経験した世界をリアルに描く──だけじゃない。間違いなく物語表現としてかなり練られている。これも原作読んでみようかなあ。ドラマも録画だけしてまだ観て無い。『大正オトメ御伽話』第10話、そうか、大正時代なら関東大震災か。『sonny boy』第11~12話、前々期の作品をようやく観終える(他にもいくつか溜まってる)。最終回、観入った。これは、いい作品だったな。結構途中いい加減に観てたので、また頭から通してじっくり観る価値のあるものだ。というのがアラカン(まだ数年あるぞ)の昭和オタクの所感だが、平成中盤生まれのティーンエイジャー三男も「もう一度最初から通して観たい」とのこと。小学生前半から親や兄ちゃんたちと一緒にいろんな作品に触れてきた、オタク英才教育が効果を奏しておるわい。

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