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楽曲分析から(7)トリコルド、順列変異体、そして、鎖状体

『百人一首のための注釈』では、トリコルドによってセリーが生成されるシステムが音高を組織します。同じ単位をもった布置のひとつとして3音が見做されると、あるトリコルドの同一性が成立します。ひとつのトリコルドをなす3つの音はここでは長二度の音程で結合されます。これは、「トリコルダーレ音楽」技法の発案者、作曲家フランチェスコ・ヴァルダンブリーニ(Francesco Valdambrini)がつかったものと同じです。

トリコルドたちは別々の2列に整列し、各々の列において12の「順列変異体」が結合します。この「順列変異体」(permutation)の各々では、4つのトリコルドが2つのヘキサコルドとして接続し、全体としては、121音が「鎖状体」(concatenation)を形成します。ひとつのヘキサコルドにおいて、2つのトリコルドが短二度の音程で接続し、2つのヘキサコルドは同一の音で交差することで接続し、この音はユニゾンとして、それら2つのヘキサコルドのあいだの内部旋回軸になります。このように、5つの音からなる2つのグループと、そのあいだにある和歌におけるかけことばのような1音という合計11音が、2つのヘキサコルドに一致します。さらに、2つのヘキサコルドからなる順列変異体の終結音は、後続の順列変異体の開始音と合致します。この合致音は外部旋回軸として、12の順列変異体を連結します。こうしてつくられた鎖状体は、総じて121音に一致します。またさらに、もとのヘキサコルドの音たちは、鏡像関係にある2つの音階のようにあらわれて整列し、2つの並走する音の列をつくっていきます。列「a」に整列する121音の鎖状体がもつ音程の順列は、列「b」にひっくり返されてあらわれることになります。トリコルドの同様の布置は、アレッシオ・シルヴェストリン作曲、チェンバロとフォルテピアノのための『31の短歌』でもつかわれています。

次の2つの表は、121音の鎖状体が、列「a」、列「b」として並び、2つのヘキサコルドからなる音階に対応して、12の系に分類されるようすをしめしています:1a – 1b、2a – 2b、...、12a – 12b。素数の番号が付いた音は「p」と印づけられています。

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次の譜例は、『百人一首のための注釈』の小節1から小節12を抜粋したものです。小節1から小節10は、1番歌(Figure 13)に対応し、小節11から12は、2番歌(Figure 14)のはじまりに対応します。ヴィブラフォンはこの12小節で列aにふくまれる音を使い尽くします。音程のオクターブは楽器の音域にしたがって転置します。10小節の終わりで、ヴィブラフォンは列aの118番音に達します。その間、アルトフルートは列bの順列変異体からひとつおきに音を取りだして1/16の音価で演奏します。このように異なる鎖状体を維持してきたヴィブラフォンとアルトフルートは、小節11でリズムを同期させます。列aとbの119番音は1/32という音価をもち、それに続く120番音と、ふたたびあらわれる119番音にはアクセントが付けられ、それぞれ6/32((3/32)×2)、21/32((3/32)×7)という音価をもちます。小節12の2番目の副小節には4/8という拍子記号が付けられ、そこで121番音(C#)が1つのサイクルの終わりを告げます。これは、次のサイクルのはじまりでもあります。

一方、ピアノは、小節1から小節7にかけ、2つのトリコルドを和音で弾き、ヴィブラフォンとアルトフルートが紡ぐ鎖状体へと浸透していきます。小節8から小節10にかけての各小節は1/32の音価をもつ2つの安定したトリコルドで始まります。

アルトフルート、ヴィブラフォン、ピアノは、はじめ、ソプラノ、バリトンが刻むパルスと互い違いに進んでいきます。両声部は朗誦にはじまり、作品を通じて徐々に歌唱を組み込んでいくことになります。

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