ヒロイック・ファンタジー小説「兄と師」
第一幕 荷馬車に積まれた干草の中に若者が隠れている。
「お代は結構、好きなだけ持ってきな」
御者台のほうから、男の声がした。
「いつもすまないね」
若者が横たわる荷台のすぐそばで、女の声がした。
干草がこすれる音がした。女が干草を抱えあげているのだろう。
「手伝おうか」
「そういうのを年寄りの冷や水って言うんだよ」
「ははっ、元気がいいね」
干草を取り出す音がするたびに、若者の体にかかる重みが減っていく。
若者は、息を殺して潜んでいる。
意外とすぐに音が止む。