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読書感想文ほか

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ファンタジーやSF(いずれも広義の意味での)の感想文です。 Photo at header by NordWood Themes on Unsplash https://unsp…
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#ヒロイックファンタジー

【読書感想文】Brian Murphy ”Flame and Crimson”

と、いう評論を読んだ。ただのファンタジー通史じゃない。それ以上のものだった。 章立てとか無視して叫びたいことBrian Murphy ”Flame and Crimson” Pulp Hero Press, 2020 もう一回叫ぶ。本書は、ただの通史じゃない。サブタイトルにA History of Sword-and-Sorceryとあるけれど、それ以上のものだ。 本書は、50年以上、80年以上前の作品の価値を教えてくれる。先行する作品が何に挑戦したのかも教えてくれる。

【読書感想文】フリッツ・ライバー「ランクマー最高の二人の盗賊」は敵役にこそ注目の逸品かも

「ランクマー最高の二人の盗賊」はシリーズの中で最強の女性たちが現れる作品といってもよさそう。 未読の方へネタバレ隠しを兼ねて、未読の方向けに文脈を整理すると。 「ランクマー最高の二人の盗賊」(以下、本作)というのは、短編小説でかつ「ファファード&グレイマウザー」というシリーズものの一編であり、1968年の発表(原著)。本作の邦訳は2005年で『妖魔と二剣士』という文庫本に所収。著者の名はフリッツ・ライバー。 ランクマーというのは作中に出てくる都市と、おそらくは同名の国家

【読書感想文】フリッツ・ライバー「凄涼の岸」は凄く涼しく激しく熱い

 ファファード&グレイマウザーの「凄涼の岸」を読み返していたら、グッと来る場面があった。背筋がぞっとするような寒々しい邦題、作中に漂うタナトス、死のにおいとは裏腹に、胸が熱くなる場面がある。 文庫本10頁でもアツい  1940年発表の本作は、文庫本見開きで約10頁ながらも読み応え抜群だ。  ファファード&グレイマウザーとはなんぞやと、いう説明をざっくりすると、雪山育ちの大男と都会者の小男が、怪しげなヤマに首を突っ込んでは、主として剣術と悪運で、時として(電子レンジを叩いて

ヒロイックファンタジーの人名について_R.E.ハワード「黒い予言者」の場合

ヒロイック・ファンタジーの源流コナンシリーズに登場する地名と人名に注目したら、ハイボリア世界の歴史が垣間見えたような気がした。 ハワードの命名法については、すでに先行研究があるらしく、詳しくは新訂版5巻末の「解説」を読んで頂くほうが良いと思うので(ここであれこれ書いても孫引きにしかならないので)、ちゃちゃっと話をすすめる。 【念の為】本稿には特定の地域、文化、国家、人物などを誹謗中傷する意図はありません。 気になることさて、コナンシリーズの「黒い予言者」に「イラニスタン

「星々の船」【ファファード&グレイ・マウザー】_ヒロイック・ファンタジーの思い出

本記事はフリッツ・ライバー「星々の船」のネタバレを含みます。恐れ入りますがご了承下さい。  男二人が、お宝求めて雪山へ。猫もいる。  フリッツ・ライバーの中編小説「星々の舟」(『妖魔と二剣士』所収、書誌情報は末尾に記載)は、おおよそこうした「つかみ」のお話です。  その昔、読んだときに思ったのは、登場する山「スタードック」の標高はどれくらいと、いうことでした。  冒頭に「連峰の高さは二リーグ」(「星々の舟」27頁、以下特記ない限り、ページ数は同作のもの)とあるので、だいたい

「銀の手のコルム」―ヒロイック・ファンタジーの思い出

 本記事はコルム(作家マイクル・ムアコックの描いた主人公の一人。アイルランドの伝承の影響があり、エターナル・チャンピオンという作品群に位置づけられる)についての思い出話です。コルムに限らず、ムアコック作品のネタバレを含みます。ご容赦ください。  筆者は2007年と2008年に出た新版でコルムを読みました。同じく新版のエルリックを読んだあと(少なくとも「この世の彼方の海」は読んだあと)だからか、『剣の騎士』は一回目でも読みやすかったです。  一方、『雄牛と槍』は、読みにくかっ