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読書感想文ほか

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ファンタジーやSF(いずれも広義の意味での)の感想文です。 Photo at header by NordWood Themes on Unsplash https://unsp…
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#フリッツ・ライバー

登場人物の性別が想像と違っていたこと

シールバに性別を含意する単語が使われていて驚いた。フリッツ・ライバーの未訳短編小説「The Curse of the Smalls and Stars」(ファファードアンドグレイマウザーのうち一作)を読んでいたら、シールバの性別が書いてあったのだ。 (この場を借りてヘッダー写真の撮影者さんに御礼申し上げます。上述の小説の登場人物の描写、および描写から私が想像したイメージは、影絵のようなものなので、こちらのモノクロ写真をお借りしました) ちょっと深呼吸。本記事の趣旨は、翻訳

泡で頭を使う。シャンプー、否ベーコンの話。

「世界は泡」で始まるフランシス・ベーコンの詩が、おなじく世界を泡と表現※した作家フリッツ・ライバーの好みに合いそうだなと思って読んでみた。 ※『ランクマーの二剣士』(東京創元社)の153pおよび410pに、世界を泡とする表現があります。 ヘッダー画像は泡つながり、そしてお酒とは腐れ縁の仲であるフリッツ・ライバーにちなんで、お借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。 詩の原文出典はこちら。PDFのページ数でいうと136 / 397ページ目です。 拙訳勢いあまって、

ロキと穴掘りとダウジング【読書感想文】

地の底へ引きずり込まれた相棒を救う手段は、必ずしも魔法じゃなくても、剣じゃなくても良いらしい。 この作品を読みましたFritz Leiber "Mouser Goes Below"(“The Knight and Knave of Swords”, ‎ Open Road Media, 2014に収録) Mouser Goes Belowはフリッツ・ライバー自身によるファファードアンドグレイマウザーもの(剣と魔法ジャンルの一つ)の最終話で、1988年の発表らしい。発表順で

アイアイだけど北の島【読書感想文】

ファファードアンドグレイマウザーは人生 この作品を読みましたFritz Leiber, Rime Isle (Swords and Ice Magic, Open Road Integrated Media, 2014所収) (アイスランドのような島が舞台の小説についての読書感想文のため、アイスランドの写真をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます) Rime Isleは『ランクマーの二剣士』の訳者あとがきで、浅倉久志先生が氷の魔法の二剣士として紹介なさっていた本

宝石髑髏: 「リチャード三世」と「盗賊の館」の共通点

その髑髏はどこから?シェイクスピアの「リチャード三世」でクラレンスが夢を語る場面こそ、フリッツ・ライバーの短編小説「盗賊の館」に登場する髑髏オーンファルの発想の源なのではないか? なにをいまさら。ライバーの経歴(後述)はもちろんのこと、英米のフィクションを読めば八月に真夏日が出るのと同じくらいシェイクスピアにでくわすものだし、髑髏オーンファルについても、きっとファンの交流会とかでは何度も話題になったにちがいない。 「盗賊の館」以外で筆者が偶然に出会えたものだと、タニス・リ

【読書感想文】「ベルゼン急行」フリッツ・ライバー著

雑誌掲載オンリー幻の短編「ベルゼン急行」は、まさにライバーな名品だった。一週間で二回読んだ。 収録誌は以下の通り。 フリッツ・ライバー(金子浩 訳)「ベルゼン急行」1975(『S-Fマガジン』1998年11月号に所収) 分量はというと、約14700文字の短編。ざっと以下のように計算した。 28文字*25行*2段*12頁-(28*25*3)=14700 あらすじ(全体で三分の一くらいのところまでのあらすじを書きます。本記事は、未読の人の興をそがないように-ネタバレ注意

【読書感想文】フリッツ・ライバー「円環の呪い」

ファファード&グレイマウザーというファンタジーが好きです。 どのようなお話か?というと、冒険活劇と幻想怪奇のマリアージュといった感じの小説です。 今回は前回の記事(↓)の続きみたいな感じです。 https://note.com/f_itoga/n/n188c43b8881b 『死神と二剣士』に所収の「円環の呪い」(原著1970年)の話をします。あらためてお話するのもなんですが、「円環の呪い」も「痛みどめの代価」も、1970年の単行本にあわせての書き下ろしです。対になっ

【読書感想文】フリッツ・ライバー「痛みどめの代価」

ファンタジーのなかでもファファード&グレイマウザーが好きです。 シリーズもの?と、いう質問がでたとしたら、 いいえ。一話完結の短・中編を集めて時系列順に並び替えたものです。初出のときは、一話一話で独立していた作品を、単行本化にあたって連作短編のようにしました、と答えます。 上のほうにも書きました「痛みどめの代価」は、1970年の発表(原著)の短編です。フリッツ・ライバー(1910-1992)の手になるファファード&グレイマウザーもの(1930年代後半に発表)のなかでは後

【読書感想文】フリッツ・ライバー「アルバート・モアランドの夢」

(新しい方の)『幻想と怪奇』の目次に、ライバーの短編「アルバート・モアランドの夢」というのを見つけて即注文。とてもハッピー。 どんな本に載ってるの短編小説なのか、という話は下記の通り。 フリッツ・ライバー著 若島正訳「アルバート・モアランドの夢」(The Acolyte第10号-1945年春号-初出、『幻想と怪奇 6 夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館』新紀元社、2021所収。初出の情報は同書に拠る) 本作を、こちらのブログと、ライバーの短編集『跳躍者の時空』(中村融編、

【読書感想文】フリッツ・ライバー「ランクマー最高の二人の盗賊」は敵役にこそ注目の逸品かも

「ランクマー最高の二人の盗賊」はシリーズの中で最強の女性たちが現れる作品といってもよさそう。 未読の方へネタバレ隠しを兼ねて、未読の方向けに文脈を整理すると。 「ランクマー最高の二人の盗賊」(以下、本作)というのは、短編小説でかつ「ファファード&グレイマウザー」というシリーズものの一編であり、1968年の発表(原著)。本作の邦訳は2005年で『妖魔と二剣士』という文庫本に所収。著者の名はフリッツ・ライバー。 ランクマーというのは作中に出てくる都市と、おそらくは同名の国家

【読書感想文】フリッツ・ライバー「凄涼の岸」は凄く涼しく激しく熱い

 ファファード&グレイマウザーの「凄涼の岸」を読み返していたら、グッと来る場面があった。背筋がぞっとするような寒々しい邦題、作中に漂うタナトス、死のにおいとは裏腹に、胸が熱くなる場面がある。 文庫本10頁でもアツい  1940年発表の本作は、文庫本見開きで約10頁ながらも読み応え抜群だ。  ファファード&グレイマウザーとはなんぞやと、いう説明をざっくりすると、雪山育ちの大男と都会者の小男が、怪しげなヤマに首を突っ込んでは、主として剣術と悪運で、時として(電子レンジを叩いて

「星々の船」【ファファード&グレイ・マウザー】_ヒロイック・ファンタジーの思い出

本記事はフリッツ・ライバー「星々の船」のネタバレを含みます。恐れ入りますがご了承下さい。  男二人が、お宝求めて雪山へ。猫もいる。  フリッツ・ライバーの中編小説「星々の舟」(『妖魔と二剣士』所収、書誌情報は末尾に記載)は、おおよそこうした「つかみ」のお話です。  その昔、読んだときに思ったのは、登場する山「スタードック」の標高はどれくらいと、いうことでした。  冒頭に「連峰の高さは二リーグ」(「星々の舟」27頁、以下特記ない限り、ページ数は同作のもの)とあるので、だいたい