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STEM教育ではなくNEST教育を提言している理由ーアメリカ的でなく日本的な教育の必要性

リバネスの藤田大悟です。『好きを究めて知を生み出す』をコンセプトに小中学生のための研究所『NEST LAB』を運営しています。設立10年を区切りに私たちの活動の思想について紹介しています。

1回目は、NEST LABの源流でもある小学生向け本格ロボット教室『ロボティクスラボ』の立ち上げの理由について紹介しました。

今回は、NEST LABの名前にもなっている『NEST』の意味と、リバネスの教育の思想でもある『NEST教育』について紹介します。NEST教育については、リバネスの哲学の一つとして、以下に示しているリバネスのコーポレートサイトにも紹介してありますので合わせてご覧ください。

STEM教育はアメリカらしい戦略的な考え方

「STEM」という言葉は、2000年代にアメリカ国立科学財団が提唱した、"Science, Technology, Engineering and Mathematics" すなわち科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する語です。STEM教育の背景として、当時のアメリカの国家戦略の中で、ハイテク分野の人材強化が急務であるのにもかかわらず、体系的な教育カリキュラムがないという公教育の課題があったからと言われています。連邦政府の中でも、労働力、国家安全保障、移民政策として頻繁に議論をされていました。2013年にオバマ大統領は理数教育の教員強化や、3Dプリンタの学校導入などSTEM教育振興に予算を重点配分した上で世界に発信し、世界中で「STEM」の言葉が広がっていきました。最近では、それにArt思考を加えた、STEAM教育がメジャーになりつつあり、経済産業省でも、未来の教室のプロジェクトで、STEAM library構築事業を行っています。(リバネスでも、昨年からコンテンツ作りをしております。)

ただ、このアメリカからスタートした理数教育の教科を中心としたSTEMの考えに、私たちは当初より多少の違和感をかんじていました。なぜなら、アメリカの産業としてとても強い、ハイテク系で仕事ができる人を強化する人材育成のキャンペーンに過ぎないのではないかと。教育というものは、人材育成とは違い、どんな時代でも生き抜いていける考え方を伝えるべきではないかと考えたのです。そこで、リバネスが提案したいのが、NEST教育です。

<参考文献>
アメリカ国立科学財団がまとめているSTEM教育のガイドライン
オバマ政権以降における米国STEM 教育関連予算の変化, 標葉靖子,科学技術コミュニケーション,2018.8

NEST教育のNは”Nature” 

NEST教育については、先に紹介した、リバネスのコーポレートページに示しています。一部抜粋すると以下の通りです。

NESTはNature、Engineering、Science、Technologyの頭文字です。自然に目を向け多くを学ぶことで、そこに潜む科学を理解し、技術を生み出す。そのサイクルは、これからの時代がどう変化するとしても、決して忘れてはいけない本質的な概念だと考えます。
〈中略〉
私たちが世界を理解する学びの源流には、まず自然(ネイチャー)が存在し、そして人間が自然を生き抜く工夫としてのものづくり(エンジニアリング)があります。その後に、自然から進化したサイエンスと、エンジニアリングから進化したテクノロジーに触れていくというのが、合理的な流れなのではないでしょうか。

リバネスの思想ーNEST教育

日本人は古くから、自然と対峙し制御しようとするのではなく、自然を受け入れ、その美しさと可能性を最大限に活かそうと数々の伝統技術が生まれ、引き継がれています。また、侘び寂びの世界もその真骨頂として、自然の儚さを究極まで理解した上での表現方法ではないかと思います。その考えから数々の技術も生み出されてきました。
そして、現代。世の中が混沌とし、環境問題やエネルギー問題、医療の問題など山積みななか、持続可能(サステナブル)な社会を築いていくために、大切なことは、まず自然界の原理原則を理解することです。なぜ雨が降るのか? 台風で電柱は倒れてしまうけど、倒れない木があるのはなぜか? なぜ、海ごみは僕らの海岸にとても多のか?など、これらの因果関係や物理法則、生態系を理解することが世の中を考えるための一歩だと考えています。
その上で、自然界の原理原則を使いこなし、人々に役立たせるためのエンジニアリングにつながり、それらを体系立てるためにサイエンスが生まれ、その上で人類が共有できるテクノロジーへ昇華していくのです。

サイエンスキャンプはNEST教育の理想の学び場のひとつ

それではどのような学びの機会があるのか。一つは、自分がボーイスカウトをやっていたことも影響してはいますが、大自然の中で遊びながらサイエンスを学ぶサイエンスキャンプの場所は、Natureを学ぶ理想の場です。2017年からは東レ株式会社さんとともに『青空サイエンス教室』を企画し、仮説検証を繰り返しています。実際にそこで参加した子どもたちの、キラキラした笑顔をみると、本当にNatureは、人を正直にしていくなと感じます。勉強とか、理論とか関係なしに、まずは感じて、センスを身につけることが最初だと考えるのです。

N→E→S→Tで学びを深める

NEST教育には順番が大切だと考えています。まずはNature。自然からいろいろと「感じる」ことをします。その上で、その自然から一部を活用させていただくEngineering。ここでは、農業や漁業などはまさに、自然の一部を人が活用させていただいている行為ですね。色々な試行錯誤の学びです。そして、それらの事柄の真理を追究するのが、Scienceです。ここで、哲学が生まれます。Scienceをしっかりと理解した上で、Technologyとして人類が活用できる形にもっていかないと、武器や兵器など人を殺めてしまうようなものを作ってしまう危険性があります。Technologyは、Scienceでの知見をもとに、人に役立ち誰もが活用できるために、再現性を持たせることです。俗人的ではないシステムを生み出せるかを学ぶのです。
 このように、順番に深めていくことで、さまざまなふしぎや課題に立ち向かうアプローチを手に入れることができるのです。

NEST LAB.では これらを、毎回の授業で少しずつN,E,S,Tを学んでいきます。小中学生のうちは、これらを感覚知として得ておくことで、大人になってから体が動いていくことは、さまざまな研究者が実感しているのので、間違えはないでしょう。今のうちから世界の原理原則を知り、その活用方法をしり、真理の追究の仕方を学び、再現性を持たせるまで技術を昇華させる経験はとても大きいのです。

NEST LAB.も2023年度の受講生(4月開講)を募集しています。全国からオンラインで、毎回さまざまなアプローチで自然と対話する方法、ものづくりを形にしていく方法を楽しみながら体験することができます。




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