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「モラルがない」と断じる前に

5月25日、ミネソタ州のミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に8分以上もの間、首を膝で制圧されて呼吸ができず殺害される事件が起きた。

事件の動画は瞬く間に拡散され、各地で抗議のデモが起きた。ミネアポリスを発端に、わずか数日の間にデモは暴動や略奪に発展し、全米各地に広がりつつある。

私が見に行ったブルックリンのバークレーセンターでは200人ほどが逮捕されたらしい。

日本でもこれらのニュースは大きく報道されているけど、それに反応した日本人のツイートの中で、


「いくら抗議でも暴動、略奪はモラルがない」


……ていう類の発言をいくつか見かけて、引っかかった。いや、声の主を責めたいわけじゃないです。こういう意見をもっている人は平和的解決を望んでいるはずだし、私も数年前なら同じことを言っていただろうし。

ただ、この意見はただひとつの視点……自分たち側の世界のモノサシだけで彼らの状況を断じていて。そこに相互理解の上での溝を感じたので、ちょっと説明します。

「いくら抗議でも暴動、略奪はモラルがない」という意見に引っかかった理由

この意見をそのまんま彼らの状況に当てはめるのは、けっこう難しい。

なぜかというと、モラル(道徳)ってのは誰もがそこそこ公平で安心して生きられる社会を前提にしないと成り立たないからだ。

それにモラルが醸成されるには健全な教育やコミュニティが不可欠だと思うけど、貧困や差別が彼らからそういう機会、場所を奪っているケースも多い。

ちょっと詳しく話してみる。

1862年、リンカーン大統領によって奴隷解放宣言がなされてからも、ジム・クロウ法など差別を合法化した制度は実に1964年まで存在した。そして現在でも、この記事で紹介したように刑務所ビジネスが差別の制度を存続させているなど、問題は依然として残っている。

教育格差や経済格差、雇用機会の不平等など、いろんな問題が今も解消されずに横たわっている。

そんなアフリカン・アメリカンたちの置かれた状況は、いわゆる黄色人種の肌の色をもって日本で生まれ育った人々(私ももちろん)には決して共感はできないだろう。けれど先に挙げたような映画や、本、音楽などを通じて、その実態の一片を知ることはできる。

アフリカン・アメリカンから見たアメリカ社会とは、

・何もしていない、あるいは交通違反レベルの軽微な犯罪でも逮捕される可能性がある(違反の罰金が払えないために収監されることも)
・何もしていなくても警官に不当な暴力を受ける可能性があり、時には殺害されることもある
・一般市民にも不当な暴力を受けることがある
・裁判では加害者が無罪になるケースが多い
・服役の年数が罪状に比して不当に長いことがある
・教育や就職など社会参画の面で冷遇される

パッと思いついただけでも、これだけの不公平、不公正が存在している。これらはどれも大きなトピックなので目に映りやすいけど、実際の日常生活ではもっと細かい支障がたくさんあるという話はしょっちゅう聞く。


こうした状況を見て言えるのは、生まれたときから安心して帰属できる社会で育った人が、モラルという一点を根拠に暴動を批判するのは、自分たちと彼らの世界はそもそも違うという前提を見落としているっていうことだ。(もちろん日本だって暮らしの危険や不公正などはあるけど、総体としての話です)

適切な例えかどうかは微妙だけど、親からの家庭内暴力を受けている子どもがついに親をぶん殴って家から抜け出すことができた場合、その子を「モラルがない」と批判できるだろうか。

ワンピースってマンガで確かドフラミンゴというキャラが言ってたけど、平和を知らない子どもと戦争を知らない子どもの価値観は違う。同じように、安全な世界で生きている人と、常に不安をもって生きなければならない人の価値観は違うと思う。


アメリカ社会はアフリカン・アメリカンに対して長年にわたって誠実な態度を取らなかった。良くなっている面もあるけど、悪くなっている、あるいは変わらない面も多い。

そして彼らは普段、そんな社会のルールに従って生きている。それこそ高いモラルをもって。

けれど不安や不満は常にくすぶっていて、今回のような事件が起きたときに爆発する。

もちろん暴動、略奪は良い行いではないし、支持できない。だけどモラルというなら、先に批判されるべきは罪のない人を殺害した警官と、こんな不当な事件が後を絶たない社会そのものであるべきじゃないだろうか。

そのへん含めて関心もたないと、「国際世論は黒人の暴動に批判的です」という風向きになって、アフリカン・アメリカンに対する抑圧に加担しちゃうことになる。

当事者ではないからこそ、深い関心をもって見つめないといけないと思います。

※コレを書いたあとですが、極左・極右が略奪をけしかけてる動画が拡散されるなどカオスすぎる状況になってるので、よけいに黒人批判一辺倒に陥ってはいけないと思いました。

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