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津軽のポール・マッカートニー ――青森県弘前市にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」7日目。青森県弘前市に。
生で聴く津軽三味線は、迫力満点でした。場所は弘前市の「ねぷた村」(弘前では、「ねぷた」と言います)という観光施設で、ここで1日数回生演奏が行われます。その音は、弦楽器というより打楽器のよう。「弾く」という表現より、弦を撥で「叩く」と言った方が似合う奏法で、弦から伝わってくるメロディと、撥が弦を叩くドラムのような音とが合わさって独特の音となります。おまけにテンポは速いし、音階も広い。とてもファンキー。まるでロックを聞いているようなのです。和の楽器なのに、それを表現する日本語が見つけられないのがもどかしい。

奏者のおひとりは左利きで、珍しいなあと思っていたら「たぶん私だけですよ」と。小さい頃から左利きで、食べること、字を書くことなど親に矯正させられて、お箸もペンもいまでは右手を使うと言います。津軽三味線を始めた頃も、右手で弾いていた。でもしっくりこないので、数年で左で弾くこうと思い始める。左利き用の津軽三味線は売っていなので、特別に注文するところから始められたそうです。そういえば、バイオリンの左利き用も見たことない。多くの左利きの人も右利きの楽器で演奏されるのに、この方はどうして、そこまでして左手に拘ったのだろうか。「やっぱり強く(弦を)叩きたくて。右手じゃもう一つでね」。やっぱり打楽器に近いです。
僕が「ロックみたいだった」と感想を言うと、この方も民謡よりもむしろロックが好きで、津軽三味線を始めたそうです。

しかし伝統ある音楽の世界で、「左で弾く」というのは許されたのでしょうか。周囲から何も言われなかったのだでしょうか。ご本人に聞くと「なーんも言われなかったよ」とさっぱり。異端児扱いされていないのでしょうか?お師匠さんもよく許したものです。
「師匠さんと向かい合って習ってると、左利きだと鏡のように見ればいいんで、師匠さんの演奏をまねるの簡単なんだ(笑)。だから、習うの楽だ」(方言の再現下手ですいません)と。なるほど、向いに座って習うには左利きは有利です!!

演奏場に貼られている三味線奏者の写真をくまなく見ましたが、左利きの人はいませんでした。やっぱりこの人は、「変わった人」なのではないか。「だからここでは、俺は、ポール・マッカートニーって呼ばれてるんよ」(笑)と満更でもなさそう。そういえば、三味線の形はベースに似てなくもない。再度しつこく、左利きの演奏者って、他にいませんか?と聞くと、「まだ誰も他にいないね。イギリスにひとりいるって話しを聞いたことあるけど」と、わが道を行くことにまったく不安はなさそう。いつ、この先駆者の追随者が現れるかも楽しみです。でも、その前に、津軽三味線を習うなら、この方に向かい合って教えてもらうのがベストかもしれません。弟子を育てるのが上手な師匠さんになる可能性も大です。


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