「いまは、地域資源に食べさせてもらっているようなものです」――福島県会津坂下町にて
気仙沼ニッティング「東北探検隊」23日目は福島県の会津坂下町へ。
郡山からクルマで猪苗代湖を過ぎ磐梯山を超えると、盆地が現れます。山間に囲まれた田園の町が会津坂下町(あいづばんげまち)です。稲穂が実りはじめ、田んぼが黄金色になる一歩手前ですが、実に美しい。同時に、蕎麦の白い花が咲きはじめ、その美しさも体感しました。
ここ会津坂下に他県から移り住んだ方が、この地に魅せられた理由を話されていました。「冬は雪に覆われて、真っ白な世界になるんです。それが春になって雪が解けてきて、屋根の色とかいろんな色が見え出す。そして新緑の季節になると緑に包まれるのですが、言葉に言えないほどの種類の緑色があるんです」と。
この会津坂下で伝統工藝の会津木綿を使ったストールなどを販売しているお店があると聞いて伺いました。お店はきれいな田んぼの中にある幼稚園の跡地。会津木綿の柄をそのまま活かしたいくつものストールなどが並んでいました。その色合いは鮮やかで、色の組み合わせが独特の面白さがあります。お店の人に聞くと、「もともと会津で使われていた柄なんです」とのこと、長いあいだこの土地に愛されてきた縞なんですね。
このお店はIIE Lob(イーラボ)という名前。自らつくったものを販売しており、ここはオフィス兼店舗でした。スタッフの話しを聞いた後、創業された谷津拓郎さんにもお会いすることができました。先入観とは恐ろしいもので、最初は女性の方がつくられた会社かと思っていたのですが、入ってこられた谷津さんは、大きな体躯をされた男性で、大変失礼ながら商品のイメージとはちょっと違いました。
もともと学生時代、土木の勉強をされていたそうです。水害を防ぐのに、水の流れを堰き止めるのではなく、流れをうまく変えることで自然と人の暮らしが調和できるような技術を学んでおられたそうです。
それが実際には、伝統工芸を使った衣料品や雑貨品をつくる会社を創設。
「根っこは同じで、そのものの良さを活かすようなことが好きなんでしょう」と。たしかに、会津木綿のそのものの柄や縞を活かした製品が特徴的です。
地元生まれ、地元育ち。この地の活性化に貢献したい、そんな想いから起業されたのかと思っていたら、また意外な答えが返ってきました。
「いや、いまは地域資源に食べさせてもらっているようなものです(笑)。もちろん、僕らの事業がうまくいけば地域の発展につながるでしょうが、それは結果論。まずは事業をきちんとすることなんです。だから地元にある資源には感謝しかないですね」と。
会津木綿は、伝統あるから価値があるのではなく、価値があるから今日まで引き継がれてきたというお考えのようです。そして地元にあるものの価値をきちんと評価し、かつ客観的に見ておられるのが印象的です。
いまIIE Labでは会津木綿の中でも、ここ会津坂下町青木地区にあった青木木綿の再現に力を入れておられます。青木木綿は藍染が特徴的なのですが、30年ほど前に途絶えてしまった技術で、それをもう一度再現したい、と。昔使われていた織機を譲ってもらい、一つひとつ修理し、この機械で青木木綿を再現していくそうです。そう語る谷津さんは、ときおり黒板に図を書きながら説明してくれます。元理系と伝統工藝の相性はよさそうです。
この日見た風景から(福島県会津地方)
猪苗代湖。海のように波もあり広大。
会津の田んぼは稲穂は少しずつ頭を垂れてきた。
会津の夕日。この日は天気もよく雲がダイナミック。
会津の朝。山にかかる雲が見応えあり。
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