12-1なまはげ

「いまでも、なまはげは恐いですよ」――秋田県男鹿市にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」12日目は秋田県の男鹿半島に。
「悪い子はおるか!!!」
ドスのきいた低い怒鳴り声と大きな足音と同時に、障子が勢いよく開く。
出てきたのは、赤いお面を被った2人組のなまはげでした。
ここは男鹿市の男鹿真山伝承館。通常は大晦日しか現れないなまはげを、観光客向けに毎日実演してくれています。この日のお客さんは20人くらい。僕を含め大人もその迫力に驚くし、小さな子どもは完全に膠着状態です。テレビで大晦日の風景として放映されるなまはげとは違い、大袈裟な歩き方や無骨なふるまい、それに威圧的な口調がライブ感を醸し出されます。大人でもちょっとドキッとしました。

なまはげの総本山は、男鹿半島の真ん中にある、真山神社と言われています。この境内が山の頂上にあり、そこから毎年大晦日の夜にやってきて、各家庭を回るそうです。やってくるのは年に一度ですが、日々、なまはげは山の上から村人を見ており、一年の終わりに日々の行いを戒めにやってくる神事です。受け入れる家族は、なまはげを神聖なものとして受け入れます。家の主人は、怒り狂うなまはげを宥め、お酒や食べ物で持てなし、機嫌を損ねないよう丁重に接します。なまはげは、各家で、暴れて?戒め、そして歓待を受けながら一軒一軒を回るのです。

観光用の演出とはいえ実際になまはげを見て、これが雪の降る夜に山から下りて来ていきなり家にきたらたいそう恐そうだなあと、思わざるをえませんでした。
伝承館を出た休憩所に地元の30代くらいの女性がいたので、「子どものとき、なまはげって恐かったんじゃないですか」と伺うと、「いまでも恐いです」ときっぱり。3歳と5歳のお子さんがいらっしゃるこの方は、大晦日の日の夕方は、窓からなまはげが来るかを見張り、そろそろ来ると言う頃、子どもと一緒に押入れに入るらしい。大晦日の食事も、だいたいなまはげが来た後にするそうで、「じゃないと落ち着かないんです」と。それはそれは実際のなまはげは、テレビで観るような、泣いてしまう子どもを大人たちが笑ってみてるような雰囲気じゃないようです。

なまはげは、一軒ごとにお酒をふるまってもらうので、最後の方になると酔いも回っている。その状態でこられた家は大変。なまはげの勢いも増しており「悪い子は連れて帰るぞ」と言って、麻の袋に子どもを連れて家の外まで連れ出すそうです。いまでこそ「二階には上がらないでください」ということも通用するようになったようですが、以前は、家じゅう寝室であろうとどこでもなまはげが入ったそうで、当然部屋も汚れます。大晦日に落ち着いて紅白歌合戦を見ることはないようで、「一時中断」になるのが常だそうです。

この女性によると、幼稚園ではいまも子どもたちになまはげについて教えており、子どもたちも普段から「なまはげさん」と呼んでいるそうです。それは大晦日に来るものではなく、山の上で、日々、村の人たちを見ている。だから「なまはげさんが見てるよ」というのが戒めの言葉になります。この方が子どもの頃は、悪さをしたら「なまはげさんに電話するよ」と言って、実際に「なまはげ電話」があったそうですが、電話の向こうでは「うぉー、あー」しか言わなかったとか。

男鹿の人たちは、昔の神事を大切に守っているというより、いまなお続けているようです。なまはげをやっているのが誰だか分かっても、決してその人の名前で呼ばない。面を被った人をなまはげとして受け止め、また演じる側も大真面目でなまはげになる。男鹿半島をクルマで出るときに、なまはげのイラストがついた「スピード出しすぎに注意」のような交通標語を見ました。男鹿らしいイラストだなと思ったのですが、これは「人が見ていないときでもルールを守ろう」という意味だったことがわかりました。
「なまはげさんが見ている」。この言葉が好きになりました。

***今日見た風景から(秋田県)***

なまはげのゆかりの地、真山神社。男鹿真山伝承館に隣接。

秋田杉に囲まれた真山神社の境内

同じく真山神社の境内にある、樹齢1100年の栢(かや)の木。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?