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老舗の酒蔵には写真ギャラリーがあった――秋田県潟上市にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」11日目は秋田県に入り、八郎潟に隣接する潟上市の酒蔵へ。
潟上市にある小玉醸造さんは、創業138年の老舗企業。清酒「太平山」で有名であり、また醤油と味噌の生産も手掛けられ、味噌の生産量は秋田県最大だそうです。最初に驚いたのが、その広さ。東京ドームほどの大きさとのことで、明治時代に作られたレンガ造りの醸造蔵が目を引きます。事務所も映画に出て来そうな趣きがあり、古い建物を丁寧にきれいに使っておられる。壁にある無数の賞状も圧巻でした。これまでモンドセレクションで最高金賞、全国、東北、秋田の各鑑評会で最高位順位も獲得。味噌(ヤマキワ味噌)は農林水産祭で天皇杯を受賞されています。

醤油、味噌、酒に共通するのは発酵技術。扱う素材は異なれど、応用できる技術もあるそうですが、ただ、職人さんの技術としては、それぞれ別々だそうです。醤油を寝かしている樽は100年以上前に秋田杉でつくられたもので、いまなお使い続けています。樽がおかれた蔵も歴史あるもので、蔵全体が良質な酵母に満たされている。なのでこの樽を違う蔵に置いても、同じ味の醤油はできないそうです。

案内して下さった総務課長の小玉芳弘さんは、中途入社だそうです。大学時代に化学を専攻された後、東京の精密機器メーカーに3年務め、地元に戻り親戚が経営するこの会社で働き始めたそうです。当初は地元に戻るつもりはなかったそうで、「東京から戻るのは一大決心でした」と。「若いころは自由になりたいと思って親元を離れたのですが、離れると逆に親のことが心配になるもんで。それで戻ることを決めました」
最初はお酒の品質管理の仕事を担当されたそうです。化学で培った分析の技術はお手のもの。しかし、微生物を扱うお酒の品質分析は、勝手が違ったそうです。次第に利き酒もするようになった。利き酒は高度な味覚の感覚が要求されるのではないか。そうお伺いすると「もちろん感覚の優れた人もいますが、経験、回数を積むことでできるようになります」。芳弘さん自身、利き酒をするようになり「普段の食事でも利き酒しているような感じになってしまうので、周囲からは嫌がられますね」(笑)。
お酒の品質は機械による分析をすると同時に、最後は人の味覚に頼るという。そして、日本酒の品質を決めるのは味だけではないと言います。「口に含んで舌で味を確かめますが、うまみや甘さを感じる部分は舌の中でも違うので、舌のなかで転がすように味を確認します。そして、鼻に抜けるときの感じ方。これはなかなか言葉にしづらいですが、五感で感じるもので見定めるのです」と。日々微妙な感覚の違いに神経を使うことで、感じ方の目盛りが相当きめ細かくなっているのでしょうか。

小玉醸造さんでは、敷地内で写真ギャラリーを併設されておられます。写真家の中村征夫さんは潟上市出身。その縁で「ブルーホール」というギャラリーを8年前にオープン。中村氏の常設展とともに、企画展も実施しています。古い蔵をリノベーションしたギャラリーは入るなりに杉の香りが心地よく、とても落ち着きます。蔵で使っていた柱と壁の質感がとても上質な空間をつくっていて、ここのベンチでずっと座っていたいほどでした。ギャラリーでは展示会のみならず、これまで落語家の林家木久扇や歌手の加藤登紀子さんのコンサートも実施されてこられました。もともと蔵を改造したものなので、音響がよく、レコーディング会場として貸してほしいという依頼もあるそうです。


また蔵の見学ツアーも無料で実施されておられます。このような活動について、芳弘さんは、「私も最初は食品メーカーに勤めたつもりでしたが、いまでは食文化を担っているという意識に変わりました。特に発酵の技術は文化だと思うのです。これを守っていかなくてはならない」そして「社長の考えでもあるのですが、地域の繁栄なくして自社の繁栄はないです。こうした活動が地域の活性化の一つになればと思ってやっています」と自然体で仰いました。

***今日見た風景から(秋田県)***

ひまわりに覆われた道が4キロ続く。八郎潟町の真ん中を通る道。

男鹿半島では巨大ななまはげがお出迎え(高さ15メートル)。

男鹿半島名物の「ゴジラ岩」。

男鹿半島から望む、夕陽前の日本海。

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