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Could you help me?

少し前に、口唇ヘルペスが再発した。
なんにも予兆はなかったのに…暴飲暴食もしてないのに…夜もぼちぼちちゃんと寝ているのに…なぜ…
唇にできた水ぶくれが痒いうえに痛くて、我慢できなくもない程度の灼熱感が下あご全体にじんわりと広がる。率直に言ってめっちゃしんどい。
非常に憂鬱だが、症状が出てしまったものは仕方がない。さっさと治療することにした。
ヘルペス再発時の市販薬を買おうかと思って調べていたけど、ちょうど直近で心療内科の月イチ診察があったので、まずはそこで処方が出ないか確認してみることにした。ダメと言われたら帰りにドラッグストアに寄ろう。
「ヘルペスが出てしまいました。薬って出してもらえたりしますか?」
「塗り薬なら出せますよ」
問診のついでに確認してみたら、あっさり軟膏を処方してもらえた。
些細なことだが、非常にありがたかった。
そうだよな、たかが口唇ヘルペスと思っているけどウイルス感染症だし、ストレスで再発するのだから、病院で相談したっていいんだ。
処方してもらった軟膏はよく効いて、チリチリする痛痒さが半日もかからず治まった。

それから。
少し前に、取引先の担当編集とのやりとりで、納得いかないことがあった。
詳細は省くが、これは担当氏と1対1でやりとりをしても埒が明かないと判断して、すぐに相手方の責任者に報告して間に入ってもらった。
おかげでことは早々に解決した。
正直、フリーランスの立場は木っ端のように弱いので、面倒なことを言う相手だと思って仕事を干されるかもしれない…という危惧はあったし、実際に発注数に影響があるかどうかは次の発注があるまで分からない。
担当の頭越しに相手方の責任者にトラブルを報告するというのも、なんだかおかしな話だと思った。
以前のわたしだったら、面倒だから自分が我慢すればいいやと思っていたであろう状況だ。
今回はそんなふうに自分に無益な忍耐を課すこともなく、トラブル相手の責任者を適切に巻き込んで、対処することができた。


我慢というのは本当に厄介で、「それが苦しいことを分かっていて受け入れたのは自分だから、その苦しみの責任は我慢した自分にある」という理路が勝手に形成され、何重にも自分を縛りつけてくる。
問題は解決せず、我慢によって負担は増え、なにもいいことがない。

それにも関わらずかつてのわたしは、誰かに「困っています、手伝ってください」と、伝えて助力を得ようとすることのほうが100倍も難しいと感じていた。
お礼に返せるものがなにもないし、断られたらどうしようと考えるのは耐えがたかったからだ。
それならテキトーに目を逸らして、我慢して、忘れたふりをするほうがずっとマシだと思っていた。


「手伝ってもらっていいですか?」
それを伝えることに躊躇いが減ったことで、生きるのが格段に楽になったと感じる。

少し前に、ネガティブな予想をしないタイプだみたいなことを書いた。

うんと若い頃には、
「迷惑をかけるかもしれない」
「自分でどうにかすべきなんじゃないだろうか?」
「結果的に助力を得られなかったら辛すぎる」
そんなふうに考えて苦しくてしんどくて、他人に頼ることができなかった。
相手と仲がいいとか悪いとかとはまったく別の次元で、自分と他人すべてに不信感があったのだと思う。

少し年を重ねてからは、そもそもひとを頼ることをしなくなった。
どんなに近しいひとであっても、困りごとが深刻であればあるほど、決して口に出さなかったし、相談もしなかった。
なにがあっても平気な顔をしていたし、なにがあっても自分でどうにかしようとしていた。
ひとりで物事に対処できないなんて恥ずかしいし、それによって誰かに迷惑をかけたくなかった。
だから、ネガティブな予想をしないというよりは、徹底してその可能性を潰して生きていたという感じ。もしくは、実際になにが起きても平気だというフリをしていたような感じだ。

今はもっと、全然違う。
困っていれば助けを求める。
できないことを無理してやろうなどとはしない。
やりたくないことはやりたくないと表明する。
すり合わせが必要だと思えばそれも伝える。
ヘルペスが再発して寝返りが打てないくらい痛いのだと、ちゃんと医師に伝えて薬をもらう。
御社のスタッフ様と意見が食い違っていますので確認してほしいです、と責任者に伝えて間に入ってもらう。

自分のために、そうするようにしている。

それができるのは、今の生活があるからだ。
誰にも侵害されない生活。安全な住まい。
できないということで搾取されたり、嘲笑されたりしない。
拒絶されることが生命の危機や生活の困窮に直結しない。
それが保障されているから、ひとを頼っても怖くない。
だからNOが言えるし、NOと言ったことを後悔して苦しくなったりもしないのだ。

助けてと言うには、それを言っても大丈夫な環境と土台が必要だ。
わたしは子どもの頃父親をはじめとする大人達から抑圧を受け、就職先のブラック企業やその後のアルバイト先で、無限に自己責任論を叩きこまれた。
その先で、自己責任の極致である性風俗に捕らえられてしまった。
もう二度と誰にも助けを求められないから、ここでどうにか生きるしかないなと本気で考えていたように思う。
あの時のわたしには、自分が誰かに助けを求めていいと信じられる根拠や環境がなかったのだ。
今わたしは、その根拠と環境を、獲得しなおしている。


今朝、洗顔して鏡を見たら、しつこかった口唇ヘルペスがようやく消えてなくなっていた。
単純ヘルペスは一度かかるとウィルスが体内に残り続け、体調不良やストレスなんかで再発する。生涯付き合わないといけない面倒なウィルスだ。
今後もなにかの折に再発することがあるかもしれない。
その時も、必要とあらば病院に行こうと思う。
痛いのは我慢したくないし、困っている時には助けてもらいたいから。


では、また。

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