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移植後の再発

         

個室に案内され、娘はベッドに横たわっていました。
私の緊張が伝わっていたのか
看護師さんは椅子を「どうぞ」と準備した後に
話すこともなく部屋を出て行きました。

まもなく、ドアを叩く音と同時に
見覚えの有る医師が3人足早に入ってきました。
その中の一人と簡単な挨拶を交わした後
病状の説明がありました。

血液検査とレントゲンを診る限りでは
股関節に膿が溜まったのが原因で
骨髄移植後に起こる特有な病気らしかった。
まあまあ高い頻度で起こるらしい。

今の時点では再発の可能性はほぼ考える必要はない
そう告げられました。
「再発の可能性はない」との言葉に、緊張の糸が切れ
全身の力が抜けました。
誰に感謝したかったのか分からないけれど
とにかく、感謝の気持ちで一杯になりました。

股関節にある膿が入った袋を手術で取り除き
次の日からは歩くことができ
一週間後には退院することが出来ました。

この入院を境に、私は「もう再発はしないかも」
そんな根拠もない自信を持つようになり
これまでとは違い、家族との時間を心から楽しめるように
なったのでした。

お腹の子どもは順調に成長し
7ヶ月検診では偶然にも性別が判明し
少しずつ出産の準備も始めていました。
お互いの両親とは出産について話すことは無いままでした。

娘が股関節の手術をして3ヶ月ほど経った頃
左のこめかみが腫れていているのに気が付きました。
丁度、ビー玉くらいの大きさでした。
いつから出来ていたのだろう?

半月前の定期検査では、異常がないことを確認したばかりでした。
なんとも言えぬ不安、油断していたことの後悔
胸のざわつきを感じながら、その腫れた所に触れてみました。

私は愕然としました。
看護師として働いていたときに触れたことのある感触
一瞬にして、それが何であるかが分かってしまったのです。

「腫瘍だ、絶対に間違いない」
登園の準備を中断し「今日は幼稚園、お休みしようね」とだけ言い
私は急いで電話の受話器を取りました。
手が震え、声もうわずり、動揺を隠すことが出来ませんでした。

娘を不安にさせないように「これから病院に行くね、
ここのタンコブを先生に診てもらおうね」そう言うと
娘の手を取りタクシーに乗ったのでした。
娘は何も気づかぬ様子で
お気に入りのぬいぐるみを手に無邪気に遊んでいました。

その様子が可愛くて、切なくて、これから起こるであろう厳しい現実から
何としてでも守ってあげたい・・・強く、強く思うのでした。









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