SS 喫茶店のカレー

1

「今日の昼はあそこでいいか」
そう呟きながら部屋を出た。
アパートを出て近くにある公園を通り、
住宅が並ぶ道大通りから細い路地へと入る。

歩き始めて10分、小さな喫茶店へと辿り着いた。
扉を開くとカラカランと音がする。
「いらっしゃいませ」
来客である私に対し、右奥のカウンターにいる初老の店主が挨拶をする。
私は外の景色が見える窓際で、後ろには壁がある隅の席に座ることにした。
「カレーと珈琲をホットで」
「かしこまりました」
静かな店内を見渡した。今日は他に客は居ないらしい。
こういう人が少ない、小さな喫茶店は私の好みだ。
そんな場所で珈琲を飲みつつ読書をするのが数少ない趣味の一つでもある。

先に出されたサラダを食べ終わった頃に、メインのカレーがやってきた。
この店でお昼をとる時はいつもカレーを頼んでいる。
一番好きな料理がカレーだからでもあるが、
この店のカレーは特にお気に入りだ。
味は至ってシンプルな一方、入っている肉が大きめで柔らかく、
これがなんとも美味しい。

セットで頼む飲み物はその時の気分次第で、暑い日はアイスコーヒーだし、
胃腸を気にするなら紅茶を選ぶ。
珈琲か紅茶かと問われればどちらかといえば珈琲派であり、
高校時代に飲めるようになった頃は毎日3杯以上飲んでいた。
しかし調子に乗りすぎたのか、様々な要因で胃腸の調子を崩してからは、
具合がいい時でも1日1杯程度に留めている。

カレーライスを食べ終わり、食後の珈琲を飲みつつ読書を開始するため、
カバンから一冊の本を取り出した。
いつも持ち歩いている学園SFモノのライトノベルだ。
読むスピードは遅いため、長いこと同じ本を持ち歩いている。
しおりを差していたページから読み始めていると、
カラカランと音と共に1人の男性が入店した。
男はそのまま真っ直ぐカウンターへと座りアメリカンを注文する。
その流れで店主との会話を始めた。この店の常連客なのだろう。
寒くなったなどよくある他愛のない世間話をしているようだ。

ふと男はカウンターの隅にある写真に目を配り、懐かしむように話し始めた「まだ写真置いてたんだなぁ、京子ちゃん、可愛い一人娘だったもんな」「ええ、もう25年になります」
「そうか...今も生きてりゃ良い看板娘になっただろうに」
「そうですね、珈琲の匂いとカレーが大好きな子でした。」
「確かに、何度も俺にカレーを勧めてきて、商売上手だったねぇ」
男は笑いながら、辛気臭い話をしてすまないと別の話題に切り替えた。
本を読む振りをしながら聞き耳をたてていた私は、
珈琲が底をついたのを確認し、最初に出されたお冷を飲み干した後、
会計を済ませ、店を後にした。

2

「今日は新しい喫茶店を開拓するか」
そう呟きながら二つ隣の駅にある街へやってきた。
地図アプリを使い、周辺に雰囲気が良さそうな喫茶店が無いか探す。
密集してそうなところを見つけ、地図の通り足を進ませる。
近づいてからはアプリを閉じ、何か無いかと辺りを散策した。
こうして色んな喫茶店を巡り、開拓するのも数少ない趣味の一つでもある。
歩いているとふと小さいながらもお洒落なお店が目に入った。
こういうお洒落なところもいいなと思い、勇気を出して扉を開ける。
「いらっしゃいませ!一名様ですか?」
「はい」
「お好きな席へどうぞ」
奥の方にある隅の席に座る。
メニューを眺めていると週替わりのものからカレー、パスタ、
サンドイッチなど結構充実している。
飲み物はホットの珈琲で良いとして、食べ物はどうしたものか......

しばらくすると若い女性の店員が「お決まりですか?」と声を掛けてきた。
「ああ、えっと食事を決めかねてて......何かオススメとかありますか?」
「そうですね〜......週替わりメニューは季節の食材を使ってますので、そちらがオススメなのですが、個人的にはこのキーマカレーがオススメです!」
「あ、じゃあキーマカレーで」
「はい!飲み物はいかがなさいますか?」
「ホットの珈琲で」
「かしこまりました」
可愛くて元気な店員さんに癒された。
下心からだが、また来てみても良いかもしれない。

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