佐藤天彦ーたややん(将棋AI水匠開発者)〜角換わりは先手必勝ではない

将棋プロ棋士の第一人者と将棋AI開発第一人者による対談が面白すぎたので、概要と感想を貼っておきます。Youtube動画の詳細に、たややん氏が詳細な目次を作ってくださっているので、良ければご活用くださいね。

まずは両者の簡単なご紹介。詳細はググってください。
続いて、個人的に動画内で興味深かったトピックスを5つ取り上げました。他にも勉強にしかならない話が盛りだくさんなので、ぜひ動画の気になる部分を見てみてください。

佐藤天彦九段

18歳にしてプロ入りし、名人獲得(3連覇)経験もある、トップトップの棋士の1人。最近は独自の視点からの将棋観・将棋論を披露し、話題に。

たややん氏


将棋最強ソフト(昨年12月に行われた第3回世界将棋AI電竜戦で優勝)「水匠」の開発者。で、Vtuberとしても活躍中。ちなみに、本業は弁護士さんらしいです。何者?。。。

トピック1.角換わり先手必勝宣言について

今回の動画の一番の衝撃。
以前ちょっと話題になった、角換わりという戦法について、AIが想定局面(約1800局面)を解析し、先手有利と結論付けた問題(これも水匠による分析)。かなり将棋ファンの間でも衝撃をもって受け取られ、いよいよ将棋の終わりの始まりかとも思われたのですが、それを評価している現在の将棋AIの不備?が明らかになりました。
それは、将棋には入玉という場面がまれに現れ、そこでAIは27点法(駒を多くとった方が勝ち)で計算しているとのこと。一方でプロ棋戦の場合は24点法(一定以上の駒があれば引き分けになる)なので、理論的には局面はAIにとっては勝勢なのに、24点法で計算すると難しい、あるいは入玉されて不味い、という局面が現れうるとのこと。
AIの特性上、勝負が必ず付く27点法の方が親和性があるのですが、例えば角換わりのように突き詰めて研究が行われている戦型では、もしかすると入玉した場合の評価のブレを頭に入れて研究する必要がありそう。実例として、藤井ー伊藤匠戦が挙げられていましたが、どの将棋なのか分からず。。

トピック2.不利飛車問題について

振り飛車という(特にアマチュアの間では)メジャーな戦法があるのですが、現在のAIでは「振り飛車は損」、というのが定説になっています。飛車を振った瞬間に評価値が100ー200点程度減ってしまい、そのハンデを覆すのは難しいと考えられてきました(昨今、将棋のトッププロはほぼ全てが居飛車党)。これについては、確かに飛車を振った瞬間は評価値が悪いけれども、局面が進めば互角に近くなることもあり、一概に捨てたもんじゃないという印象です。
また、振り飛車にとって不利な局面が多くあることについて、振り飛車側は毎局新しい工夫をする必要があります。それは現代の高速研究時代においては辛い。。

トピック3.評価値ディストピアについて(推定選択率の提起)

現在は将棋のライブ配信にはかならずAIによる評価値が画面に表示されるのですが、それが果たして良い事なのか?という問題。
確かに将棋の中身がよくわからない方にとっては分かりやすく、それが将棋ファン拡大の一助にもなってきたことから、評価値のない時代に戻ることは難しい。そこで佐藤九段から提起されたのは、評価値の表示を視聴者に委ねることはできないのか?という提案。確かに、人間がAIにとっての疑問手を指してしまった瞬間に評価値が急変するのは見ていて辛いですし、将棋ってそんなもんじゃないよな、という気持ちは一ファンとして思います。
以前の評価値が出ない中継は「サッカー」で、評価値が出る中継は「野球」という例えは秀逸。
それに対し、たややん氏が「実際に人間が第一感で見える手」として提案した「推定選択率」の表示はとても可能性を感じます。例えば「推定選択率」のトップにAIが考える最善手が上がっていれば、この局面はそれほど難しくない局面と考えられ、逆に「推定選択率」に上がっていない手があれば、その局面は難しいと考えられます。
※尚、推定選択率とは、(たややん氏オリジナルの)AIによる読みを全く行わない状態でDLによる第一感を示した手のリスト(選択率付き)で、人間にとって指しやすい手を示している感触はかなりあります。今後、配信者によって採択するのか、興味深いところです。

トピック4.名手45角について

ここからは実践に現れた局面と、対局者(佐藤九段)の読み筋の紹介。
まずは今期の順位戦開幕局(斎藤八段戦)で現れた、絶妙手▲45角について。この局面は先手優勢ないしは勝勢の局面ですが、▲45角と相手の歩の頭に捨て駒をするのが素晴らしい手。例の推定選択率上位にも上がってないものの、佐藤九段にとっては前からの読み筋でこの局面においては第一感だったとのこと。リアルタイムでこの手に出会えた事は、将棋中継の醍醐味ですね。

トピック5.第76期名人戦第1局について

これは2018年に行われた羽生竜王ー佐藤名人の将棋。かなり難解な終盤を、当時のAIの探索結果と現在の水匠の読み筋を比較して、盤面の解析とAIの進歩について語られています。これまた人間の可能性を感じるのは、佐藤名人が当時かなり(あくまでも現時点での)正解に近い読み筋をしていたこと。結果的に最善とされる局面の評価が複雑すぎることから、本譜は別の手を選択することになりましたが、かなーり深い考察を知ることができて、大変勉強になりました。

おわりに

将棋AIの世界も、入っていくと沼が深いですね。。ただ、以前から主張しているように、将棋等の頭脳ゲームで起こっていることはやがて人間の実世界でも起こり得る事だと思うので、将棋という先行事例をトレースしていくことはかなり意義があることのように思います。

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