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【登山道学勉強会】日本の登山道の勾配に関する基礎調査 #2

第2回 登山道勉強会

前回は日本の「登山道」とアメリカの「トレイル」の違いについて考察しました。その中でトレイルは日本より勾配が緩いから歩きやすい、という話をしました。では本当に登山道は勾配はトレイルのより急峻なのでしょうか?だとしたらその勾配は何%なのでしょうか?今回は登山道の勾配が実際どうなっているかを調べてみたいと思います。

▼ 前回はコチラ ▼


調査方法と対象

登山道の勾配を簡易的に調べる方法として〈登山道の距離〉と登山口から〈山頂までの標高差〉をもとに勾配を割り出すという方法が考えられます。そこで『新・分県登山ガイド[改訂版]北海道の山』(山と渓谷社)を利用することにしました。

この本を採用した理由としては、山ごとに〈歩行距離〉〈累積標高差〉が掲載されていることと、全国の主要な山を網羅しているからです。

ただし本来は〈累積標高差〉ではなく〈山頂までの標高差〉で計算すべきですが、そこは結果に与える影響度は低いと見て、作業を簡略化を優先します。そして、掲載されている山のなかでも、縦走や登りと下りが違うルートのものは対象外としてて、ここでも作業を簡略化するため、同じ道を登って降りてくるルートのみを採用します。また、今回は北海道版のみ調べることにしましたが、ゆくゆくは他の地域とも比較してみたいと思います。

同じ道を登って降りるルートとして該当するのは次の通り29座ありました。

調査対象
1利尻山、2礼文岳、4ピヤシリ山、6雄阿寒岳、7カムイヌプリ、8西別岳、10羅臼岳、12武佐岳、13ニセイカウシュッペ、17赤岳・白雲岳、18緑岳、22ニペソツ山、23ウペペサンケ山、26東ヌプカウシヌプリ、27芽室岳、29カムイエクウチカウシ山(※二日目のみ)、30神威岳、31楽古岳、32アポイ岳、36暑寒別岳、37黄金山、38塩谷丸山、39札幌岳、40空沼岳、41恵庭岳、46チセヌプリ、47黒松内岳、48遊楽部岳、49狩場山
(※29カムイエクウチカウシ山に関しては1日目と3日目は緩やかな沢沿いのみなので2日目のみで計算)

記載されている〈歩行距離〉は往復の距離なので〈片道〉に直し、〈累積標高差〉を割って〈勾配〉出します。

計算式
〈歩行距離〉÷  2 =〈片道〉
〈累積標高差〉÷〈片道〉=〈勾配〉


調査結果

すべて計算すると次のような結果になりました。まず29箇所すべての平均勾配は18.6%でした。一番勾配が急なのが恵庭岳で27.7%。逆に一番緩やかなのがカムイヌムプリ(摩周湖)で9.3%という結果でした。詳細は次の通りです。

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持続可能なトレイルで求められる10%と比べると、かなり急なのがわかります。また半分以上の山で10%の倍の20%を超える勾配となっています。10%を下回ったのはカムイヌプリだけでした。

登山道学研究会.009


アメリカのトレイルとの比較

ついでにアメリカのトレイルも調べて見ましょう。本当に10%のガイドラインが守られているのでしょうか?アメリカと言っても広いので、今回は最も有名なトレイルである「John Muir Trail(ジョンミューアトレイル、略してJMT)」を比較対象として選びました。参考にするのはJMTのガイドブックとしては最も有名な『John Muir Trail: The Essential Guide to Hiking America's Most Famous Trail』(Elizabeth Wenk)です。

日本と違ってピークハントではないので、計算に少し手間がかかります。セクションごとに標高と距離が記載された表があるので、そこから主要なPass(峠)をサンプルとして、一番標高の低い地点から峠までの距離と標高差から勾配を計算しました。合計21箇所となりました。使用している単位が、距離はmile、標高はfeetなのでメートルに直して計算します。

結果は次のようになりました。21箇所の平均勾配は7.7%と、見事に10%を下回っています。

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10%をオーバーしているのは2箇所だけで Whitney Portal からの登り(12.3%)と、Glen Pass の南側のルート(11.3%)です。たしかに急な斜面を登っていくルートですが、それでも北海道の登山道と比べれば、勾配は緩い方というのは驚きです。

登山道学研究会.010


結論

前回、「登山道」と「トレイル」の違いとして歩きやすさの違いが指摘されていました。その理由として、アメリカでは”The 10-Percent Guideline”などトレイルのルールがあるのに対して、日本の登山道は山頂へ行くことを目的としているので勾配が急になってしまう、という推察を行いました。

今回、北海道の主要な登山道とアメリカのJMTの勾配を比較したところ、平均でも登山道の方が10.9%急なことが分かりました。このことから、トレイルが歩きやすいと感じる理由の一つとして勾配が影響していることが示唆されます。また、このことは道の持続可能性にも影響していると思われます。

登山道学研究会.011

今回は勾配だけの比較でしたが、それ以外にもルートの取り方も比較するのも面白いと思います。平塚晶人さんは登山道の種類を①尾根の上を通る、②沢に沿って稜線までツメ上げる、③沢に沿ってツメ、途中から尾根に乗る、④トラバースする、の4つに分類してましたが、この比率を実際に割り出してみる必要もありそうです。


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