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トレイルデザイン- Natural Forces at Work

(2020/10/24)加筆修正

Trail Work

トレイルを作ったり、メンテナンスする仕事を「トレイルワーク」と呼びます。最近、日本でもトレイルランニングのコース整備などでトレイルワークという言葉が使われるようになってきました。

トレイルワークを行う上で、理解しておくべき重要なことがあります。それが”Natural Forces at Work”つまり自然の力です。

Dirt, Water, and Gravity

自然の力、それはつまり「」と「」と「重力」です。この3点がトレイルワークのほぼ全てといっても過言ではありません。

」は言うならば”土台”です。「土」があるからこそ、私たちは山を旅することができます。

」はトレイルにおいて、ある意味で最強の存在です。そこに「重力」が加わることによって、まさに鬼に金棒となります。私たちの心の友である「土」を海へと運び去ってしまうのです。

つまりトレイルワークにおける重要ポイントは次の2点に集約されます。

トレイルワーク

「土」をあるべきところに維持するためにどうするか?

「水」の力をトレイルから如何に排除するか?

水は土を運ぶだけでなく、トレイルを侵食し、工作物を傷めます。そして水は量が多ければ多いほど、勢いが速ければ速いほど土を多く流してしまいます。その場の状況に応じた方法で、トレイルを流れる水をコントロールして排水する必要があります。

さらに、水は土の強度にも影響を与えます。基本的に、水が染み込んだ土より乾いている土の方が強くなります。

Critter Effects

そして、「重力」にも強力な味方が存在しています。それが”critter”、つまり生き物です。生き物には、リス ・ネズミ・馬・熊・鹿・牛・羊など色々いますが、”彼ら”が歩くこと(踏圧)によってもトレイルは侵食されていきます。また”彼ら”は度々、トレイルの脇を外れたり、スイッチバックをショートカットしたり、植物を引っこ抜いたりといった悪さをしでかします。そういった"critter effects"をいかにコントロールするかが重要となります。

当然のことながら”彼ら”の中に「人間」も含まれます。そのため”彼ら”の心理をよく理解しておくことが大切です。

トレイルワーク

「人間」の心理を理解する


TRAILと登山道①

トレイルワークの基本を見てきたわけですが、この内容を見て感じることがあります。それは「日本でもアメリカでも原理原則は変わらない」ということです。トレイルワークの要点を簡単にまとめると「水・土・人」と言えると思います。

では、日本ではどうでしょうか?

(株)ニュージェニックの川端郁子さんが「ヤシ繊維を使った登山道修復技術の紹介」において、登山道修復の基本方針として次の様に仰ってます。

登山道修復の基本的方策は、①流水をコントロールすること(登山道外に表流水を排水すること、登山道内の表流水を安定して流すこと)、②人が歩く場所を確保す ること③土砂を安定させ植生回復を図ることである。・・・(以下略)
(国立公園 No.740/JANUARY.2016より)

やはり、こちらも「水・人・土」と言えると思います。ただ、ここで一つ違う点があるとすれば、サスティナブルトレイルは「トレイルを作る話」であるのに対して、こちらは「登山道を直す話」と、目的や趣旨が異なっていることです。

アメリカではトレイルの作り方が確立されていて、ちょっと探すだけで様々な情報が出てきます。しかし日本では、植生復元や登山道補修に関する情報は各地で頑張っている事例があって、ちょこちょこ出てきますが、登山道や歩道の作り方に関する情報やノウハウはほとんど出てきません。

例えるなら、アメリカでの山岳保全は「予防医療」なのに対して、日本の山岳保全は「対処療法」に偏っている、と言えるのではないでしょうか?


■トレイルデザイン実践ガイドTOP

参考

Trail Construction and Maintenance Notebook 2007

ヤシ繊維を使った登山道修復技術の紹介


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