見出し画像

近自然工法について知りたければ。

(2023/8/6)「多自然川づくりによる河川改修が行われた木戸川」追加
(2021/11/30)「近自然河川工法適用に関する問題点」追加
(2020/10/25)「ドイツ・スイスにみる近自然工法・・・」追加


近自然河川工法とは

「近自然河川工法」とは、もともとスイスやドイツで行われていた河川工事の工法で、英語では「Neo-Natural River Reconstruction Method」、独語では「Naturnaher Wasserbau」 と呼ばれていたものです。これが日本に持ち込まれる時に「近自然河川工法」と訳され、略して「近自然工法」とも呼ばれていました。その後、日本では「近自然」という言葉が分かりづらいということで「多自然工法」や「多自然川型づくり」、「多自然川づくり」と呼ばれるようになってきました。

英語では「Reconstruction」となっているように、画一的な河川工事で生態系が崩れてしまった河を「直す」・「戻す」といったニュアンスが含まれているようです。ドイツでは「近自然工法の原則」というものがあるそうで、その中身は次のようになっています。

①最小限の介入
河川改修にあたっての工事は最小限に。しかも必要な箇所に限り限定して行う。
②自然の自由空間の容認
自然のダイナミズムをもった河川の流れが、近自然の最良の造営者とみて、できるだけ流れと自然の営力に任せる。
③多様な動物のための立地条件の実現
さまざまな水深をもち、変化のある川底部、平坦であったり切り立った岸辺、影になる部分と太陽の当たる部分、湿った領域と乾燥した領域など多彩な動植物が棲息する。
④エコネットワークの実現
河川はランドシャフトのなかにおいて多様な生物の生息空間をネットワークするため、重要な要素を有している。
⑤工事現場で最終決定
最高の設計図も造形案も実現できなければ、何の役にも立たない。それらを工事で現実のものに置き換えなければならない。
⑥必要があれば完成後に手直し
完成後の成果をフォロー調査し目的が達成された かを明らかにしなければならない。場合によっては手直しをする。


近自然工法とは

福留先生が屋久島で「登山道は川である」ということに着目し、「近自然河川工法」の思想や理念を取り入れて登山道整備に携わり、「近自然登山道工法」というものも誕生しましたが、これは日本独自のものです。

これは個人的な考察ですが、日本ではもともと沢を道として利用していた歴史があったことと、登山道が山頂へたどり着くことを目的に作られているため「近自然河川工法」が登山道にも応用されたのではないかと思います。欧米では、山頂ではなく別の目的で移動するために歩道が作られていることと、そもそも川にならないように歩道を作られるため、こういった発想は生まれなかったのだと思います。その代わりに「Sustainable Trails」という考えが確立されています。

ちなみに、福留先生が最初に掲げた「近自然登山道工法」の基本原則は次のようになっています。

①現場に使う材料は外から持ち込まず、その約 15 メートル以内で調達する
②人工構築物の構造は、自然界の構造から学ぶ
③現場での各種作業は、道具を始め工法まで基本的に伝統技術を用いる。必要以上の人工的、造形的な作業を慎む
④現場にある石や樹木にはできる限り傷をつけない
⑤それらの造成から維持管理までの技術を、後世に向け地元に残す

「近自然登山道工法」も略して「近自然工法」と呼ばれるようになり、本家の「近自然河川工法」が「多自然川づくり」と呼ばれるようになってしまったため、「近自然工法=登山道の工法」みたいな感じになってきました。こちらは「多自然登山道づくり」にはならないのでしょうか?

昨今、近自然登山道工法も試行錯誤が行われ、各地で試みられているのは良いことだと思いますが、当初の基本原則からは遠ざかり「近自然とはいったい・・・うごごご!!」と感じるものもあります。

いずれにしましても、もともとは河川工事の工法ということは理解しておきたいところです。ということで、「近自然河川工法」を知るための資料をまとめました。

近自然河川工法の計画視点

著者:福留 脩文 発行日:1994年

近自然工法と環境保全

著者:福留 脩文 発行日:1998年

近自然河川工法適用に関する問題点

著者:岸田 憲和 発行日:1999年

国際河川における河川工法の動向

著者:足立 考之 発行日:2001年

ドイツ・スイスにみる近自然工法 : 新しい川・新しいみちづくり

著者:土谷 富士夫 発行日:2003年

思想と技術に着目した近自然河川工法及び多自然型川づくりの導入過程に関する研究

著者:坂本 いづる, 福島 秀哉, 中井 祐 発行日:2017年

近自然工法とは何か
-スイス・ドイツ・オーストリアの川、眺め歩記-

著者:孫田 敏

多自然川づくりとは何だったのか?

著者:祖田 亮次, 柚洞 一央 発行日:2012年

令和元年 欧州近自然川づくり調査報告

著者:欧州近自然川づくり調査団 発行日:2020年

多自然川づくりによる河川改修が行われた木戸川と都市河川駒込川の水生動物群集の比較

著者:辻本 翔平, 竹澤 亮, 内田 和希, 西廣 淳 発行日:2023年8月


合わせてこちらも読んでみては


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?