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精神科医が考える MMOで疲弊しないコツ① 高難度コンテンツとヒエラルキー

#1 はじめに

 こんばんは。譲葉エミルです。
 今回は読み原稿の改稿ではなく、ほとんど書き下ろしです。

 譲葉は医学生時代はガチMMO勢(昔風に言えば「ネトゲ廃人」でしょうか)でした。ICD-11が発効していたらゲーム障害と診断されていたかもしれません。しかし、思い出補正を抜いても、譲葉がガチ勢だった1990年代後半~2010年代前半と比べて、MMOの世界は生きにくくなりつつあるように感じます。

画像はイメージにきまっています。
研修医になって以降、こうはなれなくなってしまったのです。

 MMOの世界は、かつてはサークルの部室のような空気がありましたが、現代のMMOは公共空間のようになってしまいました。現代のMMOでは現実の世界と同じ作法が求められる一方で、現実に繋がる情報を秘匿することがまだ求められています。このジレンマがトラブルを招いていることもあると考え、これから何回かに分けて、MMOで疲れないコツをお話ししていきたいと思います。

 可能な限り一般論を述べるように注意しましたが、記事内容が譲葉がプレイしていたMMOの影響を受けている可能性があります。そのあたりは事情を承知した上でお読みください。


#2 MMOは共同作業

 MMOの高難度コンテンツには、パーティを組んであたることが多いのですが、その場で募集して単発でいくか、月単位とか週単位でパーティを組んで挑戦することが多いです。

 MMOで高難度コンテンツに挑戦する場合、ダンジョンの出口までたどり着くって言うのが究極目標です。そこには、強力なボスがいたり、理不尽なトラップが仕掛けられていたりするわけですが、そういった障害をパーティで協力して乗り切るのがゲームのゴールになります。その間に得る報酬やペナルティはオマケのようなもののはずです。

コンテンツ踏破が目的ならば、アイテムは食玩のおまけのようなものです。
そのはずなのですが、トラブルが絶えません。

 しかし、参加するプレイヤーの数が増えれば増えるほど、「出口にたどり着けば成功」という目標は薄れていきます。その意識の希薄化と、挑戦するプレイヤーの多さが、トラブルを引き起こすのです。

#3 オマケを巡る争い


 MMOの開発者は、プレイヤーのモチベーションがダンジョンをクリアしたいという欲動だけで完結しないことを知っています。ですから、多くのゲームではコンテンツをクリアした後に、ご褒美としてアイテムを用意しています。

 人間の脳には報酬系といわれるシステムが備わっています。個人が魅力的に感じるものについて快楽をおぼえ、それを得た行動を繰り返させるためのシステムです。生存と生殖に遠からず関係のある「本能」のひとつであるため、これに抗するのは非常に困難です。

 複雑なコンテンツを踏破したときの快感もさることながら、そのあとに付随する「おまけ」の装備品やアイテムの奪い合い、そのあとにしばらく浴びる他プレイヤーからの憧れも、報酬系の影響を受けます

この報酬系はゲーム障害とも影響し合っているのですが、
今回の話とは全く関係ないので触れません。

 アチーブメントや称号の収集に熱を上げるプレイヤーもいますが、多くのプレイヤーのモチベーションはそこにはありません。多くのプレイヤーは高難度コンテンツをクリアした結果得られる、カッコよくて、敵に大ダメージを与えられるようになる装備や、皆に自慢できる騎乗用マウントの取得に関心を示すでしょう。したがって、仲間とクリアしたというスクリーンショッ
トよりも、道中で入手できる報酬のほうがより重要だろうと推測できます。

 そんなことはない。仲間と苦労した時間の方がより重要だ!と主張する方もいるかもしれませんが、実装直後のクリア後に同じことをスパッと言えるでしょうか。おそらくちょっとだけ後ろめたい気持ちがあるとおもいます。安心してください、譲葉もそのうちの1人です。

 これは、チームに貢献して充実感を得るという多人数の遊び方と、強い武器をもらって無双したいという1人の遊び方が混ざった結果です。

 MMOとコンソールの楽しみは根本的に違っています。ここを自覚することで、アイテムを巡るトラブルは概ね未然に防げると思います。
 ゲームが成熟して、ある程度攻略のためのドロップ分配法則が成立し、暗黙的に了解されている場合は別ですが、そういうMMOでも見た目装備や騎乗用マウントなどのドロップを巡りトラブルが起きる可能性がないとは言い切れません。

#4 カジュアルVSハードコア論争


 MMOの話をすると、プレイヤーのヒエラルキーの話をさけて通ることが出来ません。

ヒエラルキーの一例、「ママカースト」


 プレイヤーのヒエラルキーとは、ゲームにどのくらいのめり込んでいて、どのくらいゲームの装備が整っており、腕前もあるかという、様々な面で理解されるプレイヤーの順位です。ワールド・オブ・ウォークラフトが世に出てからは、幾分変化したように思いますが、2000年代以前のプレイ時間がモノを言った時代よりは複雑になっています。
 当時はレベルと装備が強さを定義しているのであり、それらは長時間遊ぶことでしか手に入れられなかったからです。
 いつもログインしていて何時でも狩りをしている人たち――ゲーム廃人と言われる人たち。仕事や学校が終わってからログインするコア層、たまにログインするライト層・・・などなど、です。

 しかし、現代のMMOではプレイ時間はさほど重要視されなくなり、短期間で高難度コンテンツに挑戦して早々にクリアする人たちがハードコア層と定義されるゲームもあるようです。
 そういったゲームではコンテンツのクリアに週単位~月単位の期間を使い全力でアタックします。彼らの行動原理はチームプレイと踏破です。効率的な踏破の為なら仲間にアイテムを譲ることすら厭わないでしょう
個の理屈よりもゲームのクリアのためには集団の理屈が優先されるのです。

 他方、カジュアル層といわれる人たちがいます。彼らはハードコア層のように激しくゲームを遊んでいません。ハードコア層の後ろから、彼らの足跡を辿るのです。彼らが残した配信やコミュニティ内の発言から、効率の良い攻略方法を編み出たり、トレースしたりしながら、計画的にアイテムを分配してそれなりの速度でクリアしていくのです。

据え置き型RPGから、21世紀初頭のMMOまではレベル上げがコンテンツの1つでした。

 かつてはレベル上げそのものがコンテンツであり、レベル上げが終わったあと高難度コンテンツに挑戦できる人自体が限られていたものですが、現在はレベルを上げきったあとのコンテンツをどう楽しむかが主流です。

 レベル上げはチュートリアルの一部になってしまったのです。カジュアル層の上澄みは、ハードコア層の公開した動画や記事をたどり、より効率的に、洗練された方法にまとめていきます。それをうけて、カジュアル層の真ん中がクリア方法の型を決め、続いていくのです。
 こ

#5 カジュアル層のヒエラルキー

 譲葉は、ハードコア層の上に行けば行くほど、報酬に対する執着が減っていくと考えています。
 コンテンツの性質にもよりますが、魅力的な報酬を用意している以上、
後発になればなるほど、コンテンツを踏破した事実に対する魅力は失われていきます
 攻略情報が充実すればするほど、装備やステータスの吟味が進むため、遊びの画一化が進んできます。「こういう仕掛けですが、これだけ覚えておけばクリアできます」という効率化が進む過程で、先行者が得た情報がどんどん失われていきます。たとえば、道中の仕掛けや、取るに足らないドロップの情報です。するとコンテンツに対する理解も浅くなり、型どおりにしか動けず、柔軟に反応できないプレイヤーも出てくるようになります。結果として、アドリブがきかなくなり、遊び方の幅がさらに狭くなります。

PDCAサイクルを回しすぎた結果、ゲームなのに仕事のようになってしまうこともあります。

 先人の残した型どおりの動きしかできないプレイヤーは、パーティ内のプレイヤースキルの問題でフラストレーションをためることにもなります。
 まだ型どおりの動きができていれば良いのですが、その下には「初見でクリアしたい」とさえ思っている人もいるかもしれません。それは怠惰なだけです。

 かつてよりもレベルが上げやすくなり高難度コンテンツに挑戦しやすくなった現代のMMOで、実装してしばらく経ってから挑戦する場合、このような様々な背景を持ったプレイヤーが入り乱れて参戦してくること自体がコンテンツの踏破を難しくするのです。

#6 おわりに


きょうはMMORPGの高難度コンテンツの構造について考えてきました。
次回もこれを掘り下げていきたいと思います。
最後までごらんいただきありがとうございました。

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