【開発秘話】盲導犬ロボットから、アプリへ。視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」が完成するまでの7年間の道のり
みなさん、こんにちは!視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」note編集部です。
2023年4月にリリースされ、サービス開始から4ヶ月ほどで、1万ダウンロードを突破した「Eye Navi」。
今では、スマホ1つで道案内と障害物検出をできるアプリとして、たくさんの視覚障がい者の方々に利用していただいていますが、実はリリースするまでに7年という長い歳月がかかっているんです。
今回のnoteでは、Eye Naviがリリースされるまでにかかった道のりについて、開発秘話をみなさんにお伝えしたいと思います。
「盲導犬ロボット」から開発がスタート。プロトタイプ完成後に発覚した、大きな課題
Eye Naviの始まりは、2015年に遡ります。現在Eye Naviのアプリ開発を務める株式会社コンピュータサイエンス研究所が設立され、その翌年2016年に「盲導犬ロボット」の開発プロジェクトが立ち上がりました。
実は、Eye Naviは最初からアプリだったわけではなく、このとき開発した「盲導犬ロボット」が、現在のEye Naviの原型になっているんです。
前職で地図大手のゼンリンに勤め、電子地図の開発に携わっていたコンピュータサイエンス研究所代表の林は、スター・ウォーズに出てくるR2-D2のような自律型ロボットが身近にいて、人々の手助けをする社会を思い描いていました。
20年以上前になりますが、そんなゼンリン時代にも「盲導犬ロボット」の研究開発にチャレンジしたことがありました。
しかし、当時は現在のようなAI(人工知能)技術がなかったこと、GPS等の各種センサも非常に大型で高価だったこと等の理由からプロジェクトは2年間で打ち切りに。
そのような過去のいきさつに再チャレンジすべく新たな環境で再度立ち上げたのが、この「盲導犬ロボット」開発プロジェクトだったのです。
ゼンリンでの「盲導犬ロボット」研究開発時代に携わっていたメンバーがコンピュータサイエンス研究所に参画するかたちとなったのも、偶然という名の必然だったのかもしれません。その後、2017年には盲導犬ロボットのプロトタイプが完成します。
試作段階で、福岡県の医療福祉・社会システム分野対応型ロボット・システム関連製品開発支援事業に採択され、「視覚障がい者のための道案内システム」として本格的に開発がスタートしました。
最初はワイヤーむき出しで、犬とはいえないような、いかにも"ロボット"の姿だった盲導犬ロボット。
これから、どう改善していこうかと話し合っていたとき、プロトタイプに大きな課題があることが発覚します。
それは、公道を自律走行するためには法規制をクリアする必要があったこと。
どうにかロボットの研究開発を進められないかと検討を重ねた開発チームでしたが、このままでは製品化が難しいと判断せざるを得ず、やむなく断念。
視覚障がい者の方に本当に役立つものを作るには、方針を大きく転換する必要があると頭を悩ませる日々が続きました。
盲導犬ロボット開発の次は、「ウェアラブル端末」にトライ!
公道の規制はそう簡単にクリアできないという結論に至った結果、2018年からは、「ウェアラブル端末」を使った歩行支援システムの開発に舵を切ります。
視覚障がい者の方にカメラや複数のセンサー、コンピュータを身につけていただき、カメラで障害物を写し、それをコンピュータで検出、音声で知らせるという仕組みを考え、新たにプロトタイプを製作してみることに。
しかし、実際にできあがった装置は肩が痛くなるほど重いという新たな課題にぶつかります。
視覚障がい者の方に実際に身に着けて歩いてみてもらったものの、「こんなもの身に付けて外を歩きたくない」という意見をいただく結果になりました。
このときばかりは、開発チームもプロジェクトの先の見えなさに落ち込みました。
それでも諦めず、2019年に再び方向転換を図ります。当時時代の最先端をいく「ネックスピーカー」を活用し、障害物の位置などを音声案内するシステムの開発に着手。
当初はネックスピーカー型デバイスとノートPCを背負ってもらい、障害物の検知を行っていました。より小型化を求めた結果、ネックスピーカー型デバイスからスマートグラス型に移行。スマートグラスで撮影した画像をiPhoneに転送、iPhone上で障害物を検出し音声で知らせる仕組みを考案します。
「これなら、公道の規制やデバイス自体の重さなど、悩みの種をクリアできる!」と意気込んでいましたが、次はスマートグラスとiPhoneを常時接続しなければならないことが課題に。
スマートグラスで撮影した画像をすぐにiPhoneに送ることが技術的に難しいという、リアルタイム性の問題にもぶつかります。
その後も様々な試行錯誤をしてみましたが、開発を進めるにつれ、技術的なハードルの高さに加え、コストの壁も見えてきました。
専用の機器を新たに開発するとなると、莫大な費用がかかる。それだけの投資をして、本当にユーザーの役に立つものが作れるのか…。そんな不安が押し寄せてきたのです。
失敗の連続のなか、「スマホアプリ」「AIを活用した画像認識」に可能性を見出したことが、一筋の光に
それまで、ハードウェアの開発にこだわってきた開発チームでしたが、自社でハードウェアとソフトウェアをどちらも作り続けることには、すでに限界を感じていました。
「視覚障がい者が安全に歩行できる未来を作りたい」という思いを支えに、次の道を探していました。
そこでたどり着いたのが、これまでの発想を大きく転換し、スマホ単独での歩行支援アプリの開発に乗り出すこと。
ハードウェアを作ることが難しいなら、スマホだけで使えるアプリを作れば、もっと気軽に歩行支援ができるのではないかと考えたのです。
とはいえ、アプリの開発は決して順風満帆ではありませんでした。初期段階のアプリを実際に視覚障がい者の方に使ってもらうと、「反応が遅い」「案内が多すぎて使いづらい」といった手厳しい指摘が。その一つ一つに真摯に向き合い、改善を重ねる日々が続きます。
その後、全国50名以上の視覚障がい者の方にモニター協力をお願いし、実証実験とフィードバックの収集を繰り返しました。
障害物との距離と方角、段差の有無、信号機の情報など、ユーザーにとって本当に必要な情報は何か。音声案内のタイミングや言葉選びも、実際の利用シーンに合わせて、練り上げていきました。
こうしたユーザー目線でのブラッシュアップが、Eye Naviを大きく進化させていったのです。
さらに2019年頃より、開発チームは新たな武器を手に入れます。「深層学習(AI)」の仕組みを活用し、アプリの機能を大幅に強化したのです。
東京都立大学の馬場教授との出会いにより実現しました。(このAIの仕組みについてはまたの機会で詳しくご紹介できればと思います。)
iPhone内蔵のニューラルエンジンのおかげで、アプリがリアルタイムに周囲の状況を分析できるようになったことで、障害物の有無や歩行者信号機の色などをより正確に検知し、ユーザーに通知できるようになりました。
AIによる画像認識技術が、Eye Naviにとってアプリの完成度を一気に上げる大きな転機になりました。
また、「視覚障がい者も、オシャレにこだわる人が多いんですよ」という当事者の声を聞いて、オシャレなネックポーチを作ることを考案し、スマホを手で持たなくても歩行ができるよう工夫。
今では世界に1つのオリジナルネックポーチを作る愛好者もいるほど、広がりを見せています。
こうして丸2年の歳月をかけ、ようやく視覚障がい者の方に自信を持って使ってもらえるアプリが完成したわけです。
すべての視覚障がい者に寄り添い続けるために、Eye Naviは成長しつづけます!
そして、2023年4月、満を持してEye Naviが正式リリース!
リリース開始から4ヶ月ほどで、1万ダウンロードを突破するという結果を出すことができました。
さらに、ユーザーの方からは、こんな嬉しい声が届いています。
「街中の移動が、グンと楽になりました」
「音声案内がシンプルで、ストレスなく使えます」
「今まで不安で行けなかった場所にも、1人で行けるようになって世界が広がりました」
こうした声を聞くたびに、Eye Navi開発チームは、『視覚障がい者の移動をサポートする』という使命を、改めて心に刻んできました。
今後は、アプリのさらなる改善を進めていくのはもちろんのこと、一度は断念した盲導犬ロボットの研究開発にも挑戦したいと考えています。
iPhoneよりも高性能なセンサーを搭載できるロボットを作ることができれば、より安心安全な歩行支援が実現できるはず。
そんな夢を胸に、開発チーム一同、これからもユーザーの声に真摯に耳を傾けながら、Eye Naviの進化に全力を尽くしていきます。引き続き、応援よろしくお願いします!
(取材・執筆:目次ほたる (@kosyo0821))
視覚障がい者歩行支援アプリ「Eye Navi」について
Eye Naviは、スマートフォンひとつで、道案内と障害物検出、歩行レコーダー機能を備えた歩行支援アプリです。
2023年4月にリリースされ、リリース開始から4ヶ月ほどで1万ダウンロードを突破しました。
Eye Naviの特徴は、AIを活用した「障害物・目標物検出」と、視覚障がい者に寄り添った「道案内」が組み合わさっていること。
この2つを実現することで、目的地までの方向や経路、周辺施設、進路上の障害物、歩行者信号の色、点字ブロック等を音声でお知らせできるアプリになっています。
Eye Navi公式ページ
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