きみへ

何かの奇跡が起こって、きみの草臥れた旧型のスマートフォンがこのブログにログインして、偶然この記事をクリックしたとする。
開いてみると、何やら序盤から回りくどい事を長々と連ねていて、こういうのが一番気に食わないきみは、面倒臭いなあ、と呆気なくブラウザを閉じるんだろう。
まさか、この文章が、まさに、きみにむけて書かれているなんて、想像もしないんだろうなあ。まあ、それでもいい。というか、その方が助かる。
もし私がきみに向けて書いていると知られれば、間違いなくきみは私に連絡を入れるだろうし、でも私はそれに気づくことはもう物理的に不可能なので、どうか諦めて欲しい。
とにかく、何かに騙されたと思って、辛抱強く、もう少しだけ付き合ってはくれないだろうか。

つい一昨日、私はきみのラインをブロックした。
もう音沙汰もなくなって一ヶ月近くが経つ。まだそんなもんか、と思うか、もうそんなにか、と思うかはきみ次第だけど、きっと多分きみはそのどちらでもないんだろうな。本当に、きみは何も考えていない人だから。
ひょんなことから出会って、関係を持って、でも私たちは恋人ではなかった。
その時間を選んだのは私で、間違いなく私で、私はその間違った選択を、今でも愛おしいと思っている。
私は初めて、自分の意思で、用意された安全な道ではない方を進んだ。
会ったり、会わなかったりが続いて、気づけば半年以上が経っていた。
私は愚かにも、当たり前に一年、二年と過ぎていくと思っていたけど、そんなことはなかった。あっという間に、きみとは会わなくなった。

この文章は、きみにとって何なんだろう。
ラブレター?よくわからない。多分、違う。それよりもっと、重くて深いもの。
私は、出会った当初こそあなたのことが好きだったけど、その気持ちもすぐに消えていた。好きよりも、もっと大事な気持ちだった。
次会ったら伝えよう、そうしよう、と決めていて、結局伝えられなかったことがある。ついでだから、ここに残して昇華しよう。
バイト終わり、最寄りの駅から家までの十分間。
夜中零時の田舎道を、私は毎日夜空を見上げて帰っています。自転車を漕ぐ足は止めず、だんだんと移ろう夜空をじいっと見つめます。
冬は大三角が綺麗に見えたけど、今ではそれもすっかり遠くの彼方へ消えていきました。今はあんまり星は見えません。
毎日、毎日同じ景色を眺めて、考えるのです。
私の大切な人たちのこと。
もう随分と会えていない旧友や、死んだあーちゃんや、遠くに住む血縁のない父。その中に、きみもいます。
今日も一日、お疲れ様。
また明日も、一緒に生きようね。
そうやって告げて、家に帰るのです。
そのくらいの気持ちをあなたに向けていたというのは、伝えたかった。ちゃんと目を見て。思いのままに。

まあ、それも叶わず、私はきみとの連絡手段を断ちました。
きっときみはとっくに絶ってる。
今までずっと一方通行で、きっと今でもそれは変わっていないけど、これを機にようやく対等になれる。そんな気がします。
ブロックのまま、削除できないのは私の弱さです。甘えです。いつか、消します。
私が大それた夢を話した時、きみは至極真面目な顔で私に言いました。
絶対なれる。お前、きっと将来はそれで一発当ててるよ。
私はその言葉に恥じないよう、まだまだ修行するのみです。
いつか私が、きみの目にすぐ飛び込むような文章を書ける日が来たら、その時は連絡してください。
お元気で。
じゃあな。

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