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愛され男と閉ざされた扉のヒミツ

クーカのスタジオ内1階にある本棚をご存知だろうか。

重厚な作りのその棚は、クーカのくせ者社長がどこからか買い集めてきた民芸品のひとつ。メンバーが作品の参考にするための雑誌や図鑑が大量に収められていて、誰もが自由にこの本たちを手に取ることができる。

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しかし、この棚の扉が開かずの扉となる日がある。

月曜日と水曜日。


そう、彼がやってくる日。

彼がやってくる日は、扉を閉めねばならない。


くる!くるぞ!彼の名は・・・


大野晋平!!

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(ジャーン)

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こんにちは!

アートする福祉施設『studio COOCA(スタジオ クーカ)』です。

今回ご紹介するのは、クーカのアーティストとしてもう10年のキャリアを持つ「しんちゃん」こと大野晋平さんです。
気になる本棚のことは一旦置いておいて、しんちゃんと言えば「色鉛筆三枚おろし」。クーカの昔からのファンの皆様にとってはお馴染みのワードだろうと思います。

色鉛筆の、「三枚おろし」・・・?

わかります。意味が分かりませんよね。

まずはこちらをご覧ください。

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これらはGALLERY COOCAでしんちゃんの個展が行われた際に展示されたもの。
廃棄物を使ったオブジェ?前衛的な現代アート?そう言われればそうかもしれません。
これこそがかの有名な「色鉛筆の三枚おろし」、その痕跡なのです。

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(個展で展示された等身大パネル。)


しんちゃんが使う画材は決まって三菱の色鉛筆。

ただ、なぜかそのままで使うことはせず、色鉛筆の「芯」だけを使って描いていきます。

ではその芯を取り出す様子、つまり「三枚おろし」の手順をご紹介しましょう。

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まっさらな三菱の色鉛筆を手にしたしんちゃんは、まず1本1本をのこぎりで短くカットしていきます。そのカットの音は「ぎりぎり」とか「ごりごり」ではありません。

「ずっ」

なのです。

まるで包丁でネギでも切るかのように、軽々とひとおもいに色鉛筆をカットしていきます。

(歌いながら楽しそうに色鉛筆をカットしていくしんちゃん。)

その後、同じ長さに綺麗に切り揃えられた色鉛筆を丁寧に並べると、おもむろに1本ずつを手にし、

ガジッ!!

とかぶりつき、

メリメリッ

と木製の外周部分を歯で剥ぎ取っていきます。

その姿はあたかも・・・進撃の巨人・・・!!

剥ぎ取られた残骸がこちら。

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(よっ!見事な三枚おろし!)

そうして取り出した色鉛筆の芯を使って描くのは、なんといつも同じ作品。

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同じ数字、同じ記号が同じ色で、同じ位置に描かれています。

この数字が何を意味するのか、実は誰にも分かりません。ご家族にもわからないそうです。
ただ、しんちゃんは見たものをスクリーンショットのように頭の中に留めておくことができるようで、この数字も車のナンバーなのか、誰かの電話番号なのか、どこかで見て記憶に焼きついた数字をずっと再現し続けているのでは?ということです。

さてここで、この絵が描かれている紙にも注目です。

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普通の画用紙ではありません。

ベニヤ板もありますが、そのほかの紙は少し厚みのある、でも新品ではなさそうな・・・

そう、しんちゃんがこれらの絵を描いたのは図鑑や絵本などハードカバーの本の「表紙」。その裏側。

しんちゃんはお目当ての本を見つけると表紙をビリビリと破って取り外し、意気揚々といつもの絵を描き始めるのです。厚紙に描く感触や、紙をビリビリと破る感触が大好きなようです。

他のメンバーが読んでいる途中だろうとしんちゃんの目にとまったらもう逃れることはできません。一触即発!な状況にも何度なったことか・・・(笑)
そんな経緯があり、1階の本棚はしんちゃんのビリビリ攻撃を避けるため、彼が出勤する月曜と水曜だけ厳重に施錠されることになったのでした・・・

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(しんちゃんがビリビリに破った紙や色鉛筆の残骸を使ったコラージュワークショップを行いました♪)

そんなワイルドなしんちゃん。実は無類の音楽好きでもあり、クーカでは常にマイラジカセにお気に入りのCDをセットし、繋いだイヤホンで音楽を聴いています。
そのとき見られるのが「しんぺいダンス」。
仁王立ちになり、両手を脇の横でまるでボートを高速で漕いでいるかのように前後させ、全身を揺らします。その姿はライブハウスの最前列でヘッドバンキングをしている観客のようにも見えます。
音楽が盛り上がるとともにしんちゃんのテンションも上がり、全身を使って前へ後ろへハッスルハッスル!!
「うわあ、しんちゃんノッてるなあ。大音量でロックでも聴いてるんだろうか。」

ある時、あまりにも激しく身体を揺らすものだからイヤホンがブチッとラジカセから外れてしまったことがありました。そのときスタジオ内に大音量で流れたのは・・・


「こんにちは、赤ちゃん♪ わったし~が~マ~マ~よ~♪」



一同:「ズコー!」


そう、しんちゃんがいつもノリノリで聴いているのは童謡や歌謡曲なのです。

それでなぜあの身体のノリになるのは謎ですが、この音楽への情熱と身体性に目をつけたクーカスタッフ達はしんちゃんの魅力を多くの方に知ってもらうべく、「大野晋平とダラダラーズ」というユニットを結成しました!

ダラダラーズメンバーが奏でる太鼓やキーボードなどの楽器の音に合わせて、しんちゃんがノリノリでライブペインティング!
お客さんも含めたその場のボルテージが高まり、みんなの気持ちがひとつになって、最高の瞬間でした。


・・・ただ、

しんちゃんは他人に決められたことをそのままするような簡単な男ではありません。
あくまで自分の気分がノッた時に、お客さんの前でその豪快なペイントとしんぺいダンスを披露してくれるのです。
何度か行われたこのライブペインティングイベント。ある時はこの動画のようにばっちり上手くいきましたが、ある時はみんなが一生懸命太鼓を叩く中、しんちゃんはひとり隅でおにぎりを食べているだけ・・・ということも(笑)。
でもその自由さと、当日何が起こるかわからない即興性も含めて、「大野晋平とダラダラーズ」のパフォーマンスと言えるのかもしれません。

そう言えば、この時しんちゃんが描いていた絵、いつものあの絵とは違いますよね・・・?

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実はこれ、「しごと」と繰り返して書いてあります。

あるとき、イベントでなかなか絵を描かずにいたしんちゃんに、ダラダラーズメンバーの一人が「しんぺいくん!これはお仕事なんだからちゃんとやりなよ!」と声をかけたそう。

するとしんちゃんはその日から・・・

ひたすらに、
「しごと」
と描くようになってしまったのだとか(笑)。

ワイルドに見えて、実は繊細で純粋な面も持つしんちゃんなのです。

繊細で純粋だからこそ、自分の気持ちにまっすぐ。今やりたいことをやる。やりたくないことはやらない。

これはクーカの他のメンバーにも共通するところですが、みんな自分がやりたいことに本当にまっすぐ。

「やりたいこと」「やりたくないこと」「やりたくないけどやらなくてはいけないこと」
私たちの生活にはそんなことが沢山あって、みんな「あ~やだな。めんどくさいな」なんて思いながらも「でもやらなくちゃ」と上手く自分を騙しながらやっていますよね。

でもしんちゃんにあるのは「やりたいこと」「やりたくないこと」の2択のみ!それが例えば「仕事に行く」とか「お昼休みにお昼ご飯を食べる」とか、一見生活に必要そうなことであってもお構いなし。
今流行のマインドフルネスを地でいっちゃっているのです。

だけど、いや、だからこそ、自分の気持ちに優しい分繊細で、人にも優しくできるしんちゃん。

一見豪快に見えるけれど、色鉛筆の芯だけで絵を描くなんてかなり繊細な作業です。もし力いっぱい握ったら、あっという間にボキボキに折れてしまいますから。

本の取り合いになってしまった後も、止めに入っていた職員の手を取り自分の頭のところに「いい子いい子」と持っていくそぶりをします。
しんちゃんには誰かにいじわるしたいとかいたずらしたいとかそんな気持ちはちっともなくて、ただただ表紙の裏に絵を描きたかっただけ。
それなのになんだかケンカみたいになってしまって、本人も「いやだな、みんなと仲良くしたいのに」と思っているんじゃないかと思います。

本棚に鍵をかけることにしたのはしんちゃんも他のみんなも気持ちよく1階のフロアを使えるようにするため。
しんちゃんは目に入ったものが気になってしまうので、扉が閉まっていればそれ以上本を探そうという気にはならなかったようです。最近は新しいラジカセで音楽を聴くことがめっぽうお気に入り。
誰かの自由が、誰かの我慢の上に成り立っているということのないように・・・
個性豊かなメンバーがどうやったら楽しく一緒に過ごしていけるか、試行錯誤の毎日です。

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今回しんちゃんのエピソードを集めようと職員に話を聞いて回ったところ、みんな「しんちゃんはかっこいい!」とか「あいつは本当に優しい」とか。みんなしんちゃんが大好きなんだなあ、愛されているなあ、ということを強く感じました。

そんなしんちゃんのトレードマークは「オーバーオール」。
色々なタイプを持っていて、いつも素敵な色や柄のシャツと合わせているのですが、このコーディネートは全て自分でしているのだとか。

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(セクシー。笑)

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(古紙を物色中・・・)

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(まるで石原裕次郎のような渋さ・・・)

オシャレにもこだわるしんちゃん、やっぱり自分にまっすぐでかっこいい!

それでは今回はここまで。次回もお楽しみに!

しんちゃんのグッズはこちらからチェックしてみてくださいね☆

(記事:COOCA パフォーマンスラボ担当 なつこ)


※この記事は登場するご本人と保護者の方の了承を得て掲載しています。