見出し画像

隠れ家の不良美少女 44 希和の秘密

水曜に希和の家へ向かう。
一緒に夕食を、と誘われたからだ、何か話もあるらしい。
到着すると希和が嬉しそうに迎えてくれた。
「お母さん、友希さん来たよ」
「そう……こんにちは一瀬さん、時間作っていただき感謝します」深々と頭を下げられ恐縮した。
近くのレストランで食事をした。
希和は嬉しそうに「家族みたいね」と言って食べている。
食事が終わるとコーヒーを飲んだ、希和はデザートのアイスを食べている。

「一瀬さん、実は希和のことでお話があります」改まって俺を見た。
「はい、俺が聞いていい話ですか?」
「そうですね、希和の事を考えると一緒に聞いていただいた方が良いと思いましたので」
希和は不思議そうな顔をしている。

「実は希和の父親の事です、いつか話さなくてはと思っていたのですが……」
「えっ?お父さんのこと?」希和は目をパチパチさせる。
「やはりその話ですか」俺は観念したように聞いた。

「実は希和の父親は、ロブスターズのリーダー山下和也《やましたかずや》さんなんです」
「「えっ!!」」俺と希和は顔を見合わせて驚いた。
「えー!お母さん本当?」
「ゴメンね今まで話さなくて」
「……お父さんは亡くなったんだと思ってた……」希和は複雑な表情だ。
俺は希和がロブスターズと関係があるのかなあと何となく思っていたが、やはりその事実に驚いた。

「彼らがデビューする前、私はレコード会社から衣装を依頼されて作りました。和也さんはこだわりが強い人だったので、何度も手直しに行きました。
デビューと言っても経済的に苦しかったのでみんなワンルームに合宿状態で暮らしてたんです。でも同じ部屋にみんなが居ると曲が作れないと言って困っていたので私の池袋の作業場を提供しました」
「そうなんですか………」俺は静かに話を聞いた。
「やがて私は和也さんと付き合うようになりました、そしてCDが売れたら結婚しようと二人決めてたんです。しかし事務所の社長は酷い人で賭け事ばかりで借金が沢山あったんです。レコード会社からのマネージメント費用や売れ出したCDのお金も借金の返済にされました、リーダーだった彼は怖い借金の保証人にさせられてしまったらしく、ある夜「もう東京にはいられない」そう言って逃げる準備をしました。私は妊娠した事を告げましたが彼はどうする事も出来ず、「すまない」そう言ってお金の入った封筒を渡しました。おそらくこれで処置してくれと言いたかったんだと思います。彼はここにいると私にも迷惑がかかるからと言って出て行きました。私は彼の事を本当に愛していたので、産んで育てることにしました」

「母さん……」希和はお母さんの背中をさすっている。
「ゴメンね希和……ずっと黙っていて」
「ううん、もっと早く聞いても私は受け止めきれなかったと思うから、それに今は友希さんのことが好きだからお母さんの気持ちが少しは分かるよ」
「ありがとう希和」希和のお母さんは涙ぐんでいる。
俺は言葉を失ったままだ。

「お母さんが私を産んでくれたから今私は友希さんと出会えて幸せだよ」希和は涙を拭きながら俺をみた。俺は少しだけホッとした。
「希美子さんと和也さんの子供だから希和子なんですね」俺は聞いてみる。
希美子さんは何も言わずコクリと頷く。
「そういう事なんだ」希和は納得したように頷いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?