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隠れ家の不良美少女 62 希和のお願い

「私は働いていたホテルで養子になっている、今の奥さんには子供もいる、小学生の女の子だが……」
「私はお父さんの今を大事にして欲しいと思っています、ただあの歌を歌う事をお父さんに許して欲しいと思っただけなんです」
「勿論あの歌は希美子さんを思って作った歌だ、その娘が歌ってくれくれたことを嬉しいと思っているよ」
「本当ですか?お父さん……ここに来て良かった」希和はポトリと涙を落とす。

「一瀬くん、希和子ちゃんをよろしくお願いします」彼は深々と頭を下げた。
「はい、できる限り応援します」
「有難う……」

「実は俺が好きだった人があなたの大ファンでした、ロブスターズのCDを持っていた事がきっかけで恋人になりました」
「そうなんですか」
「でも、心臓が悪くて亡くなってしまったんです」
「…………………」
「彼女は亡くなる前に曲を作りました、でもAメロだけで終わってしまいました」
俺は彼女が書いた譜面のコピーを差し出して見せる。
譜面を見た和也さんはメロディを目で追うと「優しい曲だね」そう言った。
「出だしがソラミミになってるのは何か意味があるのかい?」
「えっ?ソラミミは………5633で友希さんのバイクのナンバーです」希和は驚いている。
「そうか。ハ長調で5度6・3・3でソラミミ、空耳ってことか」何度も頷く。
彼は『ごめんなさい、ここまでしか出来ませんでした』と軟弱しい文字で書いてあるのを見て「悔しかっただろうね」ポツリと漏らす。
突然希和が譜面を覗き込むと言った。
「お父さん、この曲を完成させてくれませんか?私この曲を歌いたいです」
「ええっ?私はもう何年も曲は作ってないし、過去の人だよ」彼は少し俯く。
「もし可能なら是非お願いします、彼女は貴方の感性をとても尊敬してましたから」俺も頼んだ。

しばらく考えていたが、彼は徐に口を開く。
「期待に添えるかは自信がないが、希和子ちゃんの、いや二人の為に挑戦してみるよ」
「本当ですか?有難う御座います」
「お父さん有難う、私は友希さんの好きだった人、桜子さんの気持ちがよく分かるんです、だから私が歌いたいんです」
「希和……」俺は言葉に詰まってしまう。
「何もしてやれなかったから、せめて曲を作るくらいはさせてもらうよ」彼は優しく微笑んだ。

「じゃあ歌詞まで作る事にしましょうか」
「はい、お願いします」
もし何かあったら確認したいと言うことで、連絡先を交換する。

「お父さん、希和もお母さんも今幸せです、だからお父さんも幸せでいてください」
「有難う希和子ちゃん、お母さんにもよろしく伝えてください」
「はい」

手を振って別れた。
希和のお父さんはずっと見えなくなるまで手を振ってくれた。

「友希さん……有難う……」
「良かったな……話ができて」
「うん、気持ちが軽くなった」
「でもびっくりだな、希和の声はお母さん譲りだったなんて」
「そうだね、お母さん凄い」
二人でニッコリ顔を見合わせた。

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