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隠れ家の不良美少女 165 妹

朝お母さんがスマホを見て固まっている。
「どうしたのお母さん?」
「和也さんの奥さんと娘さんが今東京に来ていて会いたいんだって」
「そう、美和ちゃんがくるの」
「希和は会ったことがあるの?」
「美和ちゃんとは空港で会ったよ、美和ちゃんのお母さんとは会ったことない」
「そう…………」
「娘さんの衣装を作って欲しいんだって」
「そうなんだ、じゃあ良いのを作ってあげようよ」
「そうね…………」

その日の午後KKステージに二人は訪れた。
「お姉ちゃん!」美和ちゃんは駆け寄って抱きついてくる。
「美和ちゃん、元気だった?」
「うん、私今度ピアノの発表会があるの、だからキナコさんと同じ衣装を着たかったの」
「そうなんだ、じゃあ綺麗な衣装を作ろうね」
「うん」何度も頷いている。

「初めまして東之美波です」深々と頭を下げた。
「初めまして、相沢希美子です」
「希和子です」
美波さんは細身でとても綺麗な人だった。

「すみません、突然に……でも一度はお会いしたかったので………」
「はい……」
二人はデザイン室の大きなテーブル席へ座った。
私はお茶とジュースを出す。

「私と娘はキナコさん、いえ希和子さんにとても感謝してるんです、和也さんは希和子さんが会いに来てくれるまでどこか寂しそうでした。あの事件で人前に出なくなった和也さんは父のホテルで黙々と働いてました、真面目で優しい和也さんを父は気に入って養子にと願い、和也さんは私と一緒になったんです」
「そうなんですか………」

「問題が治まって、バンド再活動の話があったんですが、和也さんは『俺はもう終わった人だから』そう言ってギターを持つことはなかったんです。娘は和也さんの昔の映像を見て『お父さんはかっこよかったのになあ……』そう寂しそうに言ってました。でも『キナコさんの曲を頼まれた』そう言ってまたギターを持ってくれました」
「そうだったんだ、私無理に頼んだようで心配してたんです」
「キナコちゃんありがとう」美波さんはにっこり微笑んだ。
「かっこいいお父さんが戻ってきたのはキナコさんのおかげだよ」美和ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。

「私はあまり体が強くありません、子供はほとんど諦めてました、でも奇跡的に美和が生まれたんです、そして和也さんに名前をつけて欲しいと言ったら、しばらく考えて『美和』ポツンと言いました」

「…………………」母は俯いた。

「キナコさんの本名が希和子だと聞いて納得しました、おそらく和也さんはあなたの事を思い浮かべていたんだとおもいます」

「確かに昔、子供ができたらお互いの文字を入れようって話したことがありました、男の子だったら『和希』、女の子だったら『希和』」母はうつむき加減に言った。

「始めはやはり嫉妬してしまいました、でも今は心から感謝してます、キナコちゃんそして希美子さんありがとう、本当の和也さんを呼び戻してくれて」美波さんはニッコリと微笑んだ。

母の表情に少し明るさが戻ってくる。
「私もキナコさんみたいに輝きたいんです」美和ちゃんは私の手を力強く握った。
プリンさんに『私も輝きたい』って言った事を思い出す。

「美和ちゃん、綺麗な衣装を作ろうね」私は強く握り返す。

「キナコさん、私みんなにキナコさんがお姉さんだって言いたい、自慢したい、でもお父さんが今はまだ言っちゃダメって言うから」少しだけ唇を尖らせる。

「そっか………美和ちゃんもう少しだけ待って、そしたら隠さなくても良いようにするから」
「希和、美波さんのことも考えてよ」
私は美波さんを見た。
「大丈夫です、私はお二人に感謝してますから」

「今度コンサートのライブ配信をする予定だから、その時に何か考えるわ」
「ありがとうキナコさん」美和ちゃんは嬉しそうだ。
「私も一人っ子で妹が欲しかったから嬉しいよ」
「お姉ちゃん」美和ちゃんはぶつかるように抱きついて来る。
私は美和ちゃんを抱きしめて背中をさすった、暖かさが伝わってきた。

「お母さん、美和ちゃんを採寸してあげたら?」
「そうね」ニッコリ立ち上がるとメジャーを持ってくる。

美和ちゃんは採寸してもらいながら言った。
「キナコさん、私にも名前をつけて欲しいです」
「名前?」
「キナコさんみたいに可愛くて美味しそうな名前」
「そうか………」しばらく考えた。

「キナコとしりとりで繋がってキナコ……ココアなんてどう?」
「ココア?」美和ちゃんは少し考えている。
「やっぱりダメか」私は頭をかいた。
「ココアちゃんか……いいです、とっても良いです、かわいいしキナコさんと繋がってるし、それに美味しそうだ」喜んでくれた。
「ありがとうキナコちゃん、よかったね美和」美波さんも喜んでくれた。

二人はにっこり手を振って帰って行った。

「ねえお母さん、もし私が男の子だったら和希だったの?」
「そうね…………」
「今から和希ちゃんを作っちゃダメだよ」
「何言っての、親をからかっちゃダメでしょう」
「和希は居なくても友希がいるよ」
「そうね、希和が大好きな友希さんがね」
「うん」私はお母さんに抱きついた。
「よかったね、お父さんの家族が悲しまなくて」
「そうね……キナコのおかげだね」

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