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「空飛ぶクルマ」航路検証をパラモーターでやった意義と分かったこと

最初に謝っておきます。備忘を兼ねていますので、長文になります。

パラモーターが加賀市上空を飛んだ

令和4年5月23日、石川県加賀市の市街地上空をパラモーターが飛行しました。デジタルカレッジKAGA(あとで説明あり)が、「空飛ぶクルマ」の航路検証を行ったのです。

一週間後の5月30日にプレスリリースを出すと、真っ先にドローン専門ネットニュースや旅行専門ネットニュースが取り上げてくれました。(一部の旅行メディアは、「空飛ぶクルマのパラモーター」という書き方をしていました。(*´Д`))

中でも、ダントツで一番わかりやすかったのはC-NETのこの記事です。プレスリリース上の情報だけでなく、ちゃんと私に取材して書いてくれました。ライターさんの力量もあると思いますが、文章がカッコいい。

そのネット記事をみて、北國新聞からも取材が来ます。石川南地域ニュース欄でカラーで取り上げてくれました。地元の方々に知ってもらうという意味でも地元新聞に取り上げられる意義は大きく、取り上げていただいたことを非常に感謝しています。

本来ならば、自治体も対象絡んでいますので、事前にメディアレクを行い、新聞やテレビなどに来てもらうと選択肢もありました。それをやらずひっそりと実験を行ったのは、大きな理由が2つあります。

  • 天候や風速の状況により飛行を延期・取りやめする可能性が高確率でありました。なによりも100%の安全を確保することが重要ですので、呼んだから飛ばなければいけないというプレッシャーが担当にかかることも避けなければいけませんでした。

  • 万が一のトラブルが起きる可能性もある。空を飛ぶモノなので、トラブルで不時着するなどの可能性はゼロではありません。ちゃんと成功してから発表すべきものだと考えました。

また、上空を飛びますので季節も重要です。6月に入ると梅雨に入ってしまううえ、石川県は全国でも降雨量の多い地域です。一方で、加賀市は加賀平野の南端にあり、福井との県境にある山々のお陰か、石川県の中では天候は安定しています。

梅雨までは天候も安定している、北陸の梅雨入りは6月頭頃、仮にタイミングを逃すと、しばらく待たなければいけなくなる。実施日と決めた5月23日というのは梅雨入り前を狙ったほぼ最後のチャンスでもありました。

日本初、世界でも初めての検証手法だったのではないか

国交省も2025年の空の移動革命の実現に向けロードマップを引いています。その中には空飛ぶクルマの実証実験を行うこと、ドローンやヘリコプターの業務知見を活かすことと明記されています。あれ、パラモーターは?

確かに、最近、ドローンやヘリコプターでの空飛ぶクルマの航路検証飛行は行われています。それは、業界関係者が思いつきやすいからというのもあります。確かに空飛ぶクルマと一番近い運用がされるのはヘリコプターかもしれないですね。

例えば、三重県では、JALとANAが三重県の予算を巡ってバッチバチに戦ってますね。まさに三重の決戦。いずれもヘリコプターを使って。いいなぁ、予算があって。

これはJALの動画。

負けじとANAも。

ちなみに、ヘリコプターは高度制限があり、300m以下を飛行する場合には特別な許可が必要になります。原則市街地で低高度には下りられません。一方でドローンは航空法の規制する150m以上には上がれません。つまり、ドローンにもヘリコプターにも出来ないことがパラモーターではできる。

パラモーターでの検証をドローンと比較した場合、

  • 150m~450mの高度での飛行が可能

    • ドローンでは地上から150m以上の高度に上がることは原則できません。航空法で規制されてますから、既製品のドローンではそれ以上の高度にあげられないようになっています。

  • 市街地上空の飛行が可能

    • ドローンを市街地上空で飛ばすには飛行許可が必要となります。しかも、この飛行許可は例えば新幹線や鉄道の上空、主要幹線道路の上空ではまず下りません。特にマルチコプター型のドローンは駆動に問題があると直下に落ちますから、仮に線路上に落ちたら大変なことになりますよね。

  • バッテリーの制約を受けず1時間以上の飛行が可能

    • 既存のドローンの大半は電力で飛びます。つまり、バッテリーの制約を受けています。どんなに長持ちするドローンでも今のところは3~40分が限界。パラモーターは最大で3時間ほど飛ぶことができます。問題は、搭乗者がその間集中力を維持し続けると言うことと、トイレを我慢し続けるという点くらい。

  • 複数のカメラやレーザーセンサー等を搭載可能

    • 空飛ぶモノはすべてなのですがペイロード(搭載重量)は深刻な問題です。マルチコプター型ドローンの場合は翼の揚力を利用していないので機動力はありますが空中でのエネルギー効率は悪い。一つでもカメラを多く積めば、その分電力を消費することになります。

  • 離れた拠点間を飛行する場合には目視外飛行となる

    • ドローンにはパイロットが乗っていませんので、離れた拠点間を飛ぶ場合には、自動飛行機能を利用し、経路上に人を張り付けるなどの措置が必要になります。

パラモーターでの検証をヘリコプター(や軽飛行機)と比較した場合、

  • 滑走路や指定場所以外の開けた場所での離発着が可能

    • ヘリコプターでの実証は基本的にヘリポートからヘリポートまでの実証となります。今回のパラモーターの試験では市民球場から飛び立ち、小学校の校庭に下りるような検証は現状では不可能です。

  • 低い高度(300m以下)での飛行が可能

    • ヘリコプターには最低高度の制限があります。低空を飛行すれば爆音となりますので、市街地での低空での飛行検証は難しいでしょう。

  • ヘリコプターは空飛ぶクルマよりパワーがある

    • ヘリコプターは排気量の大きいエンジンを搭載し、かなりの高出力で飛行します。多少の風はもろともしません。一方で、空飛ぶクルマは電力で飛ぶことが想定されますので、ヘリコプターよりもパワーが少なく風の影響を受けやすいと考えます。パラモーターは非常に風に敏感であり、低空での風の検証をするのに向いています。

  • 機材が少なく騒音がなく、安価に検証が可能

    • ヘリはご存知の通り爆音となります。パラモーターは原付二輪車程度の騒音です。

例えば、北海道や沖縄などでは、パラモーターの飛行は頻繁に目にすることができます。そのほとんどが趣味やレジャーや観光の目的であり、市街地の上空を飛ぶことは非常にまれです。また、離れた拠点間を飛行することはめったにありません。

上記を鑑み、下記の点で総合してみると、今回の検証は日本初であることは間違いなく、世界でも恐らく初めてに近い検証だったのではないかと考えています。

  • パラモーターを空飛ぶクルマの航路検証を目的として飛行した。

  • 離れた二拠点間を飛ばし、市街地の上空を飛行した。

  • 通常指定された飛行場所ではない市民球場や小学校の校庭で離発着。

  • 自衛隊や観光協会との連携をとって飛行した。

  • ドローンでもヘリでも飛行できない高度を飛行した。


パラモーターとは何なのか

モーターパラグライダー(モーパラ)、パワードパワグライダーという別の名前を聞いたことがあるかもしれません。いずれもハーネス部に人がエンジンを背負った形のパラグライダーを指していて同じものと考えて大丈夫です。

呼称は管掌団体によって違うようで、パラモーターを専門にする日本パラモーター協会や世界選手権ではパラモーターと名称を統一して使用されています。ですのでここではパラモーターと呼称します。

パラモーターの羽根の部分は、落下傘とは違い、風を孕んで形作る柔らかい翼です。そこに揚力が発生し、仰角を変えることで曲がったり上昇したりが可能です。いわゆる風だけで飛ぶパラグライダーと形は似ていますが、パラモーターはプロペラから推進力が生じており、それゆえにエンジンを持たないパラグライダーとは羽根の形状や仰角が違うようです。

そして驚くことに、このパラモーターは航空法上の規制を受けません。なので制度上はどこでも飛べる。一方で、パラモーターに似ていても3輪車にパラグライダーを付けた形状のパラトライクと呼ばれるものは、超軽量動力機というカテゴリーとなり、航空法で規制されています。

なぜパラモーターは航空法で規制されていないのでしょうか。理由の一つに、足で蹴って上がっているからという話があります。例えばヘリウム風船を大量に持って浮いてしまった子供がいても(ないですが・・・)浮遊物と一緒ですよね。パラモーターも足で蹴って上がっていますので、もはや浮遊物と同じ扱いなのです。

さらに言えば、パラモーターが規制されてない理由は、そもそもそんなに簡単ではない乗り物だからということが言えるのではないでしょうか。使用者もかなり訓練を積みますし業界団体も自主規制を引いています。

誰かに教えてもらわずに勝手に学ぶことはまず無理なため、そもそもパラモーターの人口は極端に少ない。ゆえに規制の対象にもなっていないというのも一面の事実だと思います。

パラモーターはちゃんとコントロールすれば安全な乗り物です。しかし、無理な状況下で強引に使用したり、素人が扱おうとすればやはり命に直結する事故となります。大きな事故が起きれば規制に対する扱いは変わる可能性があります。

残りは後で書きます。時間あるときに。

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