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アレシボ電波望遠鏡の復活が提案される

2020年に運用を終えたアレシボ電波望遠鏡の跡地に、後継となる望遠鏡を建設する計画について報告書のプレプリントが掲載されている。

プエルトリコ・アレシボ天文台にあったアレシボ望遠鏡(口径305メートル)は、2016年に中国のFAST電波望遠鏡(口径500メートル)が完成するまで世界で最も大きい電波望遠鏡として知られていた。1963年の完成から長年にわたり地球大気・太陽系内および太陽系外の天体など幅広い観測に用いられ、特に地球外知的生命探査(SETI)に活用されてきたことで知名度も高い。しかし2020年8月に老朽化による機材の落下事故が起きて運用休止となり、同年12月に完全に倒壊してしまった。

提案されている新しいアレシボ望遠鏡は、旧望遠鏡とは異なり、個別に送受信機を備える口径10メートルほどのアンテナを数百~千台ほど並べることで300メートル級の面積を実現するものとなっている。具体的には9メートルアンテナを並べる案では1112台、15メートル案では400台となっている。現時点では円形のアンテナが想定されているが、受信面積を最大化するために六角アンテナの開発も検討されている。

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(新アレシボ天文台のアンテナの配置を示した図。左は9メートルアンテナを1112台並べる案、右は15メートルアンテナを400台並べる案。Anish Roshi, D. et al. 2021 Figure 13より引用。)

単一反射面のコンセプトを放棄したのは、この方式では指向可能な方向が限られるのが大きな理由となっている。旧アレシボ望遠鏡は反射面を地面に固定して上空に吊るした受信機を動かすことで天頂から±20度だけ観測方向を変えることができた。これに対して新望遠鏡では天頂から±48度まで指向でき、天文学上重要なターゲットの銀河系中心を観測可能になる。別の理由として、新望遠鏡では従来の4~5倍の送信出力を目指しており、単一反射面の望遠鏡でそれを実現できるか技術的懸念があったことが挙げられている。

新望遠鏡案のもう一つの特徴は、個々のアンテナが共通した台座の上に載り、台座ごと傾けて観測方向を変える方式を採っていることだ。アンテナ群全体を一枚の台座に乗せてしまうのが理想とされているが、いくつかの台座に分けてそれぞれを動かす方式も提案されている。小型のアンテナを集合として使う場合、ALMA望遠鏡のように個々のアンテナに架台を設けて向きを変えさせる方式が多い。しかし新アレシボ望遠鏡は跡地に密集隊形でアンテナを並べるため、この方法ではアンテナを傾けた際に互いの視界を塞いでしまう。

新望遠鏡では旧望遠鏡と比べると指向可能範囲・受信感度・観測波長帯の広さ・送信出力・観測能率などあらゆる面で能力が向上し、5億ドル程度で建設できるという。

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