ミニマリストとマインクラフト。
初めてマインクラフトというゲームに触れた時、これの何が面白いのだろうと思った。
グラフィックはあまりにもダサいし、目的も分からない。
ただ見知らぬ土地に一人放り出される孤独。
やがて辺りが暗くなり始め、ゾンビのようなキャラに襲われパニックになりながらゲームオーバー。
確かそんな感じだったと思う。
多少操作に慣れてきて、とりあえず周りの地面をチーズケーキのように切り取り、壁を作り、ドアを作り、家らしきものを作る。
ただそれだけのことが妙に面白い。
この感覚は秘密基地だ。
そうやって人はマインクラフトにハマる。
僕は?と言えば、大した建造物も作れず、適当に廃墟を作りながら、一心不乱に地面を掘り続け、膨大な時間を費やしたりする。
たまに放置したヴァーチャル別荘を覗き見に行くと、無機質な豆腐建築に懐かしみを感じる。
ところで僕は少しミニマリストに憧れている。
こういった本を読んでモノに煩わされない生活はいいなと思う。
ちなみに僕は衣食住に興味が無いので、ある意味ミニマリストに近い部分がある。
ただし、絶対的に無理なのが蔵書だ。
本を置くスペースだけはどうしようもない。
できることならメンタリストのDaiGoさんのような巨大な本棚に囲まれて暮らしたい。これは本好きの人なら誰しも抱くものではないだろうか。
マインクラフトをしていると、画面の向こうの僕はミニマリストだ。
だだっ広い地面に何もない部屋を作り、最低限のドアと窓しか作れないせいで、必然的にモノの無い空間を作り出す。
何かの拍子で消えていく家畜たちを大きな壁で囲い、孤独を感じながらもどこか癒される原始生活を送る。
この世界は果てしなく続き、穏やかな時の中でただただ一人で単調な生活を営む。
もちろん、いろんな要素を追加したり、オンラインで他人と共存することはできる。
けれども、僕はすすんでそれをしようとは思わない。
何の目的もなく、ぽつんと一軒家で漫然と過ごすのだ。時には深く穴を掘り、時にはまだ見ぬ地形を探索し、孤独と虚無に苛まれながらこの世界と別れ、現実に戻る。
人間の脳は不思議だ。実際には何も無いのに、虚構の世界で砂いじりをして癒される。こんな娯楽があるなんて昔の人は想像できないだろう。
あまりにもシンプルな生活を送ると、現実世界がとてつもなく贅沢であるような気がする。
音楽一つだって、奏者を呼んで聞くのは殿様くらいしかできなかったのではないだろうか。本も数えるほどしか無ければ、そもそも文字を書ける人も少ない。娯楽を堪能できる生活を送れるのは一握りの特権階級。
僕はお金持ちではないけれど、もしお金持ちになったとしても今の延長線上でしか生活を送れないと思う。
ちょっとマシな家に住み、ちょっとマシな服を着て、ちょっとマシな食事くらいはするかもしれないけど、本や映画や漫画やゲームの値段は変わらない。購入する量は増えるだろうけど、時間は限られているから取捨選択をせざるを得ない。
どこでもドアでもあれば旅行もするだろうけど、日帰り以上の遠出はしたくない。
できることなら、本を読んでこうしてどこかに思ったことを書いていればそれでいいとさえ思う。そう考えると案外現実世界もマインクラフトと変わらない生活なのかもしれない。もし働いていなければきっと大差ない生活を送っているだろう。
この世に本が無い世界は考えれない。それは誰とも出会わないのと同義だ。
しかし、一方でこう思うのだ。
仕事を全くしていないというのは、誰かの役に立っていないことである。
なぜなら仕事は他者がいないと成立しない。対価を得ているかどうかというだけではなく、誰かを相手に何かをしているはずだからだ。そうでない仕事というのも存在はするだろうけど、少なくとも僕ができる仕事は人が介在しないと成立しないものばかりだ。
そして、誰かとの出会いは良きにつけ、悪しきにつけ、僕の心をかき混ぜる。
ある時は誰かに感謝され、ある時は誰かに頭を下げ反省を促される。
疲れて帰る電車の中で、仕事の時間を自分の時間に変えられればなと夢想する時もある。
でも、誰かと会うことで落ち込んだ気分が軽くなることもある。
誰かと話すことで突然何かがひらめくこともある。
それは本だけでは得ることのできない体験だ。
人の仕事を羨ましく思う自分は、誰かからそう思われるほど働けているだろうか。自分のことは自分が一番見ている。嘘はつけない。
もしマインクラフトの世界が現実だったら、僕はきっとつまらないと思う。あちらの世界はこちらの世界との対比があるから楽しめるのではないだろうか。
一見楽しそうに働いている人も何かの我慢をしている。自分のしたいことだけでは仕事は成立しない。
ある番組で小栗旬さんが語っていたけど、仕事だからやりたくない役もある。でも、その役をしたからこそ今やりたい役ができると。
役者の中には番宣が苦手な人もいるだろう。でも、共に作品に携わったみんなのために出たくない番組にも出て宣伝している。
どんなに輝いている人もその輝きは何かの犠牲の上で築かれたものだ。
とんでもない人数を動員したアーティストがホテルで孤独を感じる。誰かに何かを成したという気持ちが次の自分を作り励ます。その繰り返しで人は成長するのだろう。
物を減らすことは自分しだいだが、人間関係を減らすことは難しい。増やすことも簡単ではない。自分が素敵だと思える人との出会いは現実世界でないとできない貴重な体験である。孤独に生きるのはあちらの世界だけで十分なのかもしれない。
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