小田和正さん。

改めて言うまでもないことだけど、小田さんはすごい。

70歳を超えてなおあの高音、表現力。

カラオケで選んでみれば、原曲キーの高さにびっくりする。

ところで、僕は毎年「TBSのクリスマスの約束」という番組を楽しみにしている。

何しろ一年に一度しか放送されない特別番組だから、始めの頃は何度か見逃し後悔した。

だから、毎年12月頃になると僕は自分の頭の中でそろそろ始まるゾと忘れないように呪文をかける。

しかし、去年は何かの都合で放送されず、代わりに別の形で春になって放送された。そして、5月に放送されたツアーの密着ドキュメントでは、満身創痍の舞台裏に感動した。

当り前だけど、高齢なのだ。

何万人もの前で歌うだけでもすごいのに、走る、走る、走る。

若い時からスターだからこそ、今があるのは分かっているけど、それにしてもとんでもないパワーだ。

その番組の中で、71歳という誕生日をどういう心境で迎えたかと聞かれる場面がある。

それに対して小田さんは、

未知の心境ですよ。何回改めて考えても「あぁ71かぁって」
「あっ71ねっ」て感じではないよね。いつ終わってもいい年だもんね普通に考えれば。だから61ではないなという。
61はこんな年とっちゃってとは言いつつも、まだ先があるんだろうなというのはあったけど。多分多くの71の諸君はね、70からの1年、2年というのは半端ないなと思ってるんじゃないかと思うけどね。大きいんだよ。

いつもストイックな練習を続ける小田さんらしい言葉だと思う。

「クリスマスの約束」は商業目的ではなく、またチャリティ番組でもないので映像作品としては販売されていないけど、その前身とも言える番組はディスクの形になっているので持っている。

島倉千代子さん、山本潤子さん、ムッシュかまやつさん、盟友財津和夫さん、鈴木雅之さん、根本要さん達と一緒に歌うステキな曲の数々。今はもういない人が映像の中で生きている。

小田さんは言うまでもなく現役で、新曲やアルバムが未だに売れている。

僕は一度、ライブに足を運んだことがある。

自分の親くらいの世代に埋め尽くされた大阪城ホール。急なすり鉢状の階段を杖をついてのぼる人もいた。

ステージが始まるとみんな一斉に立ち上がり、手拍子する表情は若々しい笑顔で満たされ、『ラブストーリーは突然に』を始めとするアップテンポな曲が続けて披露される。

3曲ほど歌ったところで小田さんのMCが入った。

「とりあえず座りましょうか、疲れたでしょう?」

ドッとわく笑いの渦。僕のような新参者が入れないような深い深い小田さんとの絆。曲のしわに刻まれた思い出を共有する不思議な空間。

のびやかで澄んだ歌声が高い天井を突き抜ける。

やがてライブは終盤を迎え、お決まりのアンコールの声がホールを埋め尽くす。

一度め、二度め、のアンコールが行われた。

ところが、さらに三度めのアンコールが止まない。

小田さんは「もう勘弁してください」と苦笑いし、ギター片手に一人で現れ、一曲歌った。

ああ、プロってこういうことだなぁと僕は思った。

みんな小田さんと一緒に生きているのだ。普段は子どもの前で落ち着いた大人を演じているおじさんも、生活疲れの合間に会場に訪れたであろうおばさまも。

こんなに素敵な笑顔に変える力をこの人は持っているのだ。

ドキュメンタリーの中で小田さんはこう語る。

60超えてからいつまで歌うものなのかなっていうのはずっと考えていた。周りの同級生たちがもう定年でやめていくじゃない。
「お前いつまで歌うんだよ?」ってみんな聞くし、そうだなって考えたときに。
あるとき先輩が「お客さんが来てくれるうちは歌え」って言ってくれて、ああそういうものなのかなっていう・・・
でも深刻に最後になるかもしれないなっていうふうには考えたことはないけどね。

そして小田さんは、ここまで長く続けて来たのはとことん音楽が好きだから、その思いはさらに強まっていると語る。

ライブに行った帰り道、大阪城公園の前で若い男性二人がギターを演奏し歌っていた。

分が悪すぎると僕は苦笑いしたけど、年配の女性達が足を止めて聞いていた。

そんな微笑ましい記憶を時々思い出す。

彼らの歌は風のように流れていた。


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